Ⅶ. the sprouting love ♯36

文字数 700文字

「まだ意識が不安定なだけだ。明日からはまた元通りの生活をしているだろう」

 去っていく蓮崎くんには目もくれずそう言い放つルカさん。その紅く哀しい色の眼差しがわたしを捉える。もしルカさんの言うことが真実なのだとしたら、浅桜くんを守るためにもきっとすぐに逃げるべきだろう。だけどその瞳に見つめらた身体が言うことを聞かない。でもそれがただの恐怖心からきているわけではないということはわかる。それはきっと、ルカさんに言い表せない畏怖の念を抱いている自分がいるせいだ。

「緋莉、今その苦しみから解放してやる」

 そう言ってルカさんは手を伸ばす。

 そしてまた、浅桜くんがそれを制するようにわたしの前に立つ。だけど……。

「まさかルカさん……わたしの身体のことについて、なにか知ってるの?」

 わたしは堪えきれずに、浅桜くんの背中越しにルカさんへ問いかけた。

「……あぁ」

 ルカさんが静かに頷く。すると浅桜くんが叫んだ。

「立華、走れ!」

 声が聞こえた瞬間、わたしは既に浅桜くんに腕を掴まれて走り始めていた。

「浅桜くん待って! わたし、ルカさんに聞きたいことが!」

「蓮崎を見ただろ! そんなこと言ってる場合じゃない!」

 腕を引かれながらそう言われて、返す言葉もなく無我夢中で足を動かす。

 ルカさんを信じたい。信じたいけれど、ルカさんがなにかして蓮崎くんがおかしくなったのは明らかだ。人を傷つけるような人じゃない。そう思っていた。信じていた。だから事件のあとでも、わたしはルカさんと変わらずに接することができていたのに。

 腕を引かれたまま闇雲に走り続ける。
 夜の色が濃くなっていき、まるで違う世界に飛ばされたみたいに景色が歪んだ。

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