Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯11
文字数 522文字
「夜凛子は俺や緋莉のために、遺伝子工学や生化学を学んだ。いつか俺の吸血症候群を治して、万が一緋莉が吸血症候群を発症した場合にも、緋莉に人殺しをさせないためだった」
わたしと、お父さんの……ため?
いつの間にか、ルカさんがお父さんだという事実を受け入れているわたしがいる。
思い返せば、わたしの心にシグナルはいくつも届いていた。ルカさんに抱いていた安心感。それはお母さんや、幼い頃から一緒だった瑞花と過ごすときに感じるものと同じだ。
「そんな夜凛子を見ていられなくなって、俺は夜凛子の前から姿を消した。緋莉の遺伝子の塩基配列は人間そのものだったし、俺みたいな化け物のために、人生を無駄にしてほしくなかったんだ」
穏やかに話すルカさんの表情が切なく歪む。
「いや……そうじゃないか」
ルカさんは自嘲気味にふふっと笑った。
「俺は逃げたんだ。自分の運命から……」
ルカさんの顔に影が差していく。
「逃げた……って?」
「俺は、時間に置き去りにされた存在だ。周りはみんな、俺を置いて死んでいく。夜凛子も緋莉も、いつかは俺を置いて死ぬ。それがずっと……怖かったんだ」
目を閉じてどこか笑みを浮かべるその顔に、なぜか懐かしさが込み上げてきて、わたしは無意識に呟いた。