Ⅷ. Final truth ♯4

文字数 552文字


 教室へ戻り再び自分の席に着くと、前の扉から浅桜くんが入ってくるのが見えた。そしてわたしと目が合うと、そのままこちらへと歩いてくる。

「おはよう」

「お、おはよう」

 昨日の今日だ。照れ臭いのは仕方がない。

 浅桜くんが鞄を手にしたまま、顔を近づけてくる。

 ちょ、ちょっと待って、こんなところでキス? それはまずい! さすがにまずい!

 そう思いながらもぎゅっと目を瞑り少しだけ顔を上げると、浅桜くんはそっとわたしに耳打ちをした。

「昨日はありがとう。オペラうまかったよ。あれならお店でも出せるね」

「え? ……ほんとに? うれしい。こちらこそありがとう」

 あ、あぁ、そうか。そうだよね。教室でキスなんてするわけがない。密かに期待していた自分が恥ずかしい。

 それよりもお店でって、もしかして浅桜くんのお父さんのお店でってこと……だったりして? 

 思わず顔を伏せると浅桜くんはそのまま囁き声で続けた。

「さっき生徒玄関で蓮崎に会った。だけど様子が変なんだ。今日は近づかない方がいい」

「う、うん、わかった。じゃあ関わらないようにするね」

 またガラリと音がして扉のほうへ目を向けると、今度は蓮崎くんが姿を見せた。浮かれていた頭を切り替えて、さりげなく蓮崎くんを観察してみる。

 見た感じはいつもどおりだけど、どこが変なんだろう。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み