Ⅴ. instinct was calling ♯7

文字数 579文字


「緋莉はなにも買わないの?」

 瑞花が大きなショッパーバッグをどさっと席に置いて、メニューに手を伸ばす。お年玉を沢山もらえたのだろうか。今日の瑞花は羽振りがいい。

「うーん、どれもかわいいんだけどね」

 元々物欲は薄い。お店に入ってもきれいに並べられた服や小物を眺めているだけで満足してしまう。

「ルカさんへのお礼はどうするの?」

「なに選べばいいのかわかんないよ」

 メンズの店の前を通り過ぎる度にそれとなく横目で服や小物に目配せをするが、どれがいいのかほんとうにわからない。お店に入って選ぶ度胸なんてもちろんない。

「それに……」

 言いかけると胸にもやっとした影が広がって、視線をメニューへと落とす。

「それに?」

「……もう会えるかどうかもわかんないし」

 なぜだろう? 無意識に声が低くなった気がする。

「双木町にいたんだから、きっと近くに住んでるんでしょ? またすぐ会えるって」

「でも、期待しといて会えなかったらいやだもん」

「ふうん。もしかして緋莉、浅桜くんじゃなくてルカさんが好きなの?」

 そんなことを言われてしまい、持っていたメニューで顔を隠す。

 そういうわけじゃないんだけどな。でも、もう会えないかもしれないと考えると、胸がきゅうっと切ない音を立てる。

「うそうそ、冗談だよ」

 くすくすと笑いながらメニューをめくる瑞花は、同い年なのになんだかわたしより大人に思えた。

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