手合わせ1
文字数 967文字
ニシキーン先生の口元が楽しそうに歪む。
だからそういう物騒なこと言わないでくださいってば!
拮抗していた鍔迫り合いの均衡が崩れる。
先生が力を抜いて私の体が流れるのを誘ったのだと理解する前にあえて流れに乗って飛び込む。
耳元をかすめる剣筋を見極め、地面に着地したらそのまま距離をとるために走る。
訓練場の柵の際までおよそ8メートル。瞬き二つで届く。
後ろから迫ってくる気配はなし。
そのまま走って柵を蹴る。
体をひねりながら先生が立っている場所まで跳んだ。
空気を震わせる鈍い音と振動と共に、訓練場の砂が大量に舞い上がる。
手ごたえでわかっているけど、先生は剣で受けずに下がっていた。
うん、それで正解です。
手加減したとはいえ、あれを受けて無事でいられるのはハードロックタートルの甲羅ぐらいですから。
ザーというまるで大雨が降っているみたいな音といっしょに大量の砂が落ちてくる。
力をセーブしていたとはいえ、訓練場の中央は大きく抉れて人が立って入れるぐらいの穴が開いている。
これ、誰が直すのかなぁ。私じゃないといいなぁ。
央国の北東の果ては魔獣たちの生息地となっているディープティールの森が広がっているのはご存じでしょう。
その森に姿を見せる魔獣は最低でも中位危険種。一般人で立ち寄る者はまずいません。並みの冒険者では生存すら危ぶまれる地域です