激戦1
文字数 951文字
それはこの部屋に並ぶ武具が放つ一本筋の通った気配とはまるで違う。
禍々しく、歪みきり、末端からじわじわと絡み付いてくるような怖気を伴う気配だった。
ゆっくりと振り返る。
手にしていたランタンが部屋を照らす。
弱く抑えられた光のその先に――異形の存在がいた。
カシャンと音を立ててランタンが床に落ちる。
あ、あはははは……。
頭の中に力ない笑い声が満ちた。
これはダメだ。
なんていうか話し合いとか通じる相手とは思えない。
まず巨大だった。
この部屋は長柄の武具も保管されてるから他の部屋よりも天井が高くなっている。
にもかかわらず化け物は天井に届きそうなほど大きかった。
足元だって不気味の一言だ。
クモみたいな八本足が硬い地面を動くとシャカシャカと耳障りな音を立てる。
しかも一本一本が抱えられそうなほど太い。
先端が爪のように硬くなっているからそんな硬質な音がするんだよね?
その奇妙な下半身の上にはとても人間とは思えない上半身が乗っている。
どうして人間に思えないのか。
理由は簡単で、腕が五本もあるからです!
おかしい! それ絶対におかしいから!
ほとんどの動物の腕の数は二つだって相場が決まってるから!
五本の腕、八本の脚のどこが正面でどこが背中なのかもわからない姿。
そもそも五つもある腕の中心にある丸い物は頭なんでしょうか?
たくさんの皺が寄っているけど、目や鼻や口らしきものは見当たらない。
口がなければしゃべれないし、耳がなければ言葉を聞き取れない。
つまり交渉は無理だと瞬時に判断した自分を褒めたいぐらいだ。
なんてことを思っていたら、頭と思しき部分がゆっくりと動いていた。
どこが正面なのかわからないけど、こちらを向いた気がする。
皺だらけの表面がかすかに震えて縦にくっきりとした筋が浮かび上がったかと思うと、それが左右に割れて真ん中に巨大な目玉が現れた。
うぇぇ、気持ち悪すぎる……。
化け物の巨大な目玉が私の姿を捕えたのは間違いない。
さて、この状態で化け物の次の行動を予想してみましょう。
器用に八本の脚を動かしてこっちに来た!
で、ですよねー。
目が合っちゃいましたもんねー。
走り寄りながら一本の腕が握り締める剣を振り上げる。
後ろに飛んで振り下ろされた剣をかわした。