ex密会4
文字数 1,988文字
深夜、王立学院の一角。
かすかな月明りだけが届く人気のない場所に二つの影があった。
少女は顔を伏して表情を隠す。
月明りでも男には少女の口元がしっかり見えている。
少女は間違いなく笑っていた。
僕様が言うのもなんですけどまた随分と手厳しいお言葉ですね。
彼らは辺境の道場で修業をしていたとはいえ新入生ですよ?
学院でも訓練を積んできた僕様たちと同じレベルを想定して評価をするのはいささか可哀想ではないですかね
王立学院に入学するための最低年齢は設定されているが、上については事実上規定がない。
それ故、入学時点ですでに人生の半ばを過ぎているという生徒がいたとしても不思議ではなかった。
さて、それではこれからのことを話すとしましょうか。
同門の実力を見たわけですが、どうします? 本命は例の正体不明とチームを組んでいて、少なくとも今日の相手よりは強いはずですが。
いやあ、今日は本当にタイミングが悪かったですね。メンバーが揃っていないとはこれっぽっちも想定してませんでしたよ
男が意図的にあの時間、あの場所を指定したとしても不思議ではないが、それにはあえて問いたださないでおいた。
どうせ指摘したところで口先で丸め込まれるのがオチだ。
男はしばらく考えるフリをする。
だが戦力想定をした時点で答えなど決まっていた。
少女は考えている。
こういう時に右手の親指の爪を噛むのは彼女の悪い癖だった。
思考の海に沈む少女を見ながら、男は心の内でほくそ笑む。
報告していない情報があるのを彼女は知らない。
彼女がバケモノの類とした存在は、特定の剣がなければ素人同然であるということを。
この冷静さがあるからこそ、男はついていこうと思えるのだ。
まだ年端もいかない少女が己の感情に流されず、彼我の戦力差を冷静に分析し、狂おしいほど掴み取りたい選択を堪えて身を潜めることを選び取る。
少女の高潔な魂は美しい。
至上の宝だ。
だからこそ。
いつか、ここぞというタイミングを心待ちにしている。
その時、この美しい少女はどんな表情をするのだろうか。