ex密会4

文字数 1,988文字

 深夜、王立学院の一角。

 かすかな月明りだけが届く人気のない場所に二つの影があった。

それでどう思われました? 

本命ではなかったとはいえ、彼らは同門ですから実力を測る相手としては問題ないかと思いますけど

 問いかけた男の姿を視界にとらえないまま少女が口を開く。
あなたはどう思いましたか?
質問をしたのは僕様が先なんですけどね。

かといってここではぐらかしても貴女の矛先は鈍らないでしょうから素直にお答えしておきましょうか

 男はいったんそこで口を閉じ、少女の表情を観察しながら続けた。
正直、がっかりです。もう少し歯ごたえが欲しかったですね。

なにしろ央国でも数少ないユースを鍛える道場の門下生なわけですし

 男は何が面白いのか口元に笑みを張り付けている。
次は貴女の番です。

感想をお聞かせ願えますか?

 少女は顔を伏して表情を隠す。

戦略に新味はなし。

戦術は奇策レベルで評価に値しない――というところです

 月明りでも男には少女の口元がしっかり見えている。

 少女は間違いなく笑っていた。

僕様が言うのもなんですけどまた随分と手厳しいお言葉ですね。

彼らは辺境の道場で修業をしていたとはいえ新入生ですよ? 

学院でも訓練を積んできた僕様たちと同じレベルを想定して評価をするのはいささか可哀想ではないですかね

 完全に自分の意見を棚に上げているが、それを本人も自覚しながらしゃべっているので余計に性質が悪い。
もっともかなり年齢を重ねた新入生もいたようですけどね。

ガードの彼、僕様より確実に年上ですよ。学院は入学に際して年齢制限を設けた方がいいと思いませんか?

 王立学院に入学するための最低年齢は設定されているが、上については事実上規定がない。

 それ故、入学時点ですでに人生の半ばを過ぎているという生徒がいたとしても不思議ではなかった。

さて、それではこれからのことを話すとしましょうか。

同門の実力を見たわけですが、どうします? 本命は例の正体不明とチームを組んでいて、少なくとも今日の相手よりは強いはずですが。

いやあ、今日は本当にタイミングが悪かったですね。メンバーが揃っていないとはこれっぽっちも想定してませんでしたよ

 男が意図的にあの時間、あの場所を指定したとしても不思議ではないが、それにはあえて問いたださないでおいた。

 どうせ指摘したところで口先で丸め込まれるのがオチだ。

今日の五倍の戦力だと想定して、私たちの勝ち目は?
 考えるそぶりも見せずに男は回答する。

十割ですねえ。負ける要素がありません。

ですが五倍ではブルガの黒い狂戦士の戦力評価がいささか低すぎるかと。

僕様なら少なくとも十倍に設定します。余裕を見て二十倍ですかね

それほど?
あれはバケモノの類と口にしたのは貴女ですよ
 少女は鼻白んだ顔をする。
なにしろ魔獣を相手に単独で戦って生き延びていた強者です。

かてて加えて央国五剣に推薦されたということも考慮すれば妥当なところじゃないかと

ではその設定で私たちの勝ち目は?

 男はしばらく考えるフリをする。

 だが戦力想定をした時点で答えなど決まっていた。

ゼロです
……でしょうね
おや、意外に素直ですね……あ、そんな顔で睨まないでもらえますか。下半身が大変なことになってしまいますから。寮生活で処理をするのって意外に大変なんですよ?
 なんの処理かは聞く気すら起きなかった。
それで、どうします? 

波乱がなければ一年生の代表チームは間違いなく彼らです。他とはちょっとレベルが違います

 少女は考えている。

 こういう時に右手の親指の爪を噛むのは彼女の悪い癖だった。


 思考の海に沈む少女を見ながら、男は心の内でほくそ笑む。

 報告していない情報があるのを彼女は知らない。

 彼女がバケモノの類とした存在は、特定の剣がなければ素人同然であるということを。

代表は辞退します。

ここでぶつかっても益はないでしょうから

 男は意外と言いたげな表情をしているが、口に出すことはなかった。
目的をはき違えてはいけません。

私たちにはやらなければならないことがあるのです。そのためには時に回り道も必要になるでしょう

 この冷静さがあるからこそ、男はついていこうと思えるのだ。

 まだ年端もいかない少女が己の感情に流されず、彼我の戦力差を冷静に分析し、狂おしいほど掴み取りたい選択を堪えて身を潜めることを選び取る。


 少女の高潔な魂は美しい。

 至上の宝だ。


 だからこそ。

 いつか、ここぞというタイミングを心待ちにしている。

 その時、この美しい少女はどんな表情をするのだろうか。

わかりました。

そのあたりの根回しはお任せください

観察はこれからも続けるように。

こちらの意図を気取られぬよう細心の注意を払ってください……と言うまでもないことでした

僕様がそのようなドジを踏むとお思いでしたらいささかどころか、かなり傷ついてしまいますよ
 男は飄々とした表情を崩さなかった。
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登場人物紹介

サダーシュ=シュラインベース

本作の主人公。ブレイドユースなのだが愛用の使い古しの剣でしかその実力を発揮できないでいる。ただしその剣で戦う時は誰よりも強い。


イーサティア=ニアステリア

王都で困っていたサダーシュを助けてくれた女性。サダーシュと同じく学院に所属する。

ブレイド、ブロウ、スラスト、マジックの4つのユースを持つフォーユース。

トゥシス=アズウェイ

イーサと一緒にいた美男子。サダーシュに対してどこかトゲトゲしい感じがある。

ブロウとガードのダブルを持つ。

カーモリア=アナディール

王立学院の学院長。

ニシキーン=ネオビューズ

学院でブレイドの師範をしている。

央国五剣の一人。

ケントール=フィルマウス

学院でガードの師範をしている。

男子に対して特殊な趣味を持っているもよう。

ジュリウス=リベスパーン

学院でマジックの師範をしている。

方術具の制作者としても著名。

ゴウローン=フラマウンス

学院でブロウの師範をしている。隻眼。

シンゴラス=リースバリー

学院でスラストの師範をしている。

ジンバルク=アプキャッスル

サダーシュたちの担任でありマジックユース。

方術よりも古の神秘である魔法に傾倒している。

ハージェシカ=イーツテリア

学院生徒の一人。女性だがしゃべり方がそっけない。

ブレイドとブロウのダブルユース。

ハヤード=アンウィスト

学院生徒の一人。

スラストのユースで弓を得意とする。

ケインズ=サウスマウンズ

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

マジックのユース。

ゲンザール=スプラウェル

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

ガードのユース。かなり年配。

シンハース=ロンストア

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

ブレイドのユース。

ヘイステイシア=ウィスホール

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

ブロウのユース。


レフターナ=フィルパディ

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

スラストのユース。

汎用男性1

汎用男性2

汎用男性3

汎用女性1


汎用女性2

汎用女性3

モンスター

描写に合わせて適宜ご想像ください。

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