夜の日課1
文字数 884文字
夜遅く、私は人気のない場所へ稽古に向かう。
風を切る音がする。
それから地面を滑るように動く足の音。
短く漏れる呼気。
暗いところで立ち止まり、しばらく音だけを聞いていた。
やがて音が止まる。
流れ落ちる汗をぬぐうタオルもぐっしょりと濡れている。
いつからここで剣の稽古をしていたんだろう。
もう、かわいくないんだから!
それから小一時間。いつもの動きを繰り返す。
とはいえ全部我流。
実際に自分がやってきた動きのなかでよかったところをまとめたものにすぎない。
だから、ちゃんとした剣術を学んだトゥシスから見れば不格好に見えるのも仕方がないよね。
そりゃケインズ君からも「バケモノじみた動き」とか言われちゃうわけだ。
でも私にだって言いたいことはあるんだよ。
私が相手にしてきたのは魔獣。人間とは違う生き物。
手の数や足の数が違うこともあるし、ものすごく力が強かったり、皮膚が固かったり、毛皮が攻撃をはじいたりする。
そういうものを相手にするには、こちらも動き方を考えないといけない。
人間相手に戦ったことがないからそっちはよくわからないけど、魔獣相手のことならわかる。
私の動きは正しい。
だって今日まで私は魔獣と戦って生きてこられたんだから。
一通りの動きを終えて、大きく息を吐く。
視線を感じる。