出合い2
文字数 1,428文字
ふわふわとした感覚。
体だけじゃなくて心まで揺れていて、それがとっても気持ちがいい。
まるで自分の体じゃないみたいだった。
この感覚には覚えがある。
ずっと感じていたこと。
声が聞こえる。
でもなんて言っているのかわからない。
もう少し近づけばわかる?
導かれるままに進んでいく。
自分で歩いている感覚はないけど、奥へ先へと進んでいく。
声に近づいているのがわかる。
行く手を遮る扉がある。
固く閉ざされ開けることは叶わない。
だからこれまでは先へ進むことができなかった。
でも今は違う。
私の手にはこの障害を排除できる剣が握られている。
やっと帰ってきてくれた私の半身とも呼べる剣。
それを一閃させる。
嫌な感触。
嫌な音。
手にあったモノが軽くなっていた。
それから少し離れたところで鋭い金属音。
衝撃は肉体ではなく心にあった。
わかってしまった。
大切にしていたものが失われたことを。
軽くなってしまった柄をその場に置く。
でもこれで障害は取り除かれた。
ようやく先へ進める。
声のする場所へ行ける。
私が行かなければならないところへたどり着ける。
遮っていたものが排除されたおかげだろうか。声が少しだけ聞きやすくなった。
意識を声のする方へ向ける。
一歩ずつ足を進める。
すぐ前にそれがある。
見えないけれどそうだとわかる。
ゆっくりと手を伸ばす。
なにかが手に触れる。
恐れることなく握り締める。
しっくりとくる感覚。
長く分かたれていたものが再び巡り合えたかのような懐かしさ。
そうか。
ずっと私を呼んでいたのはキミだったんだね。
ふわふわと漂っていた意識が急速に覚醒していくのを自覚する。
ゆっくり目を開ける。
暗い。
けれど左手に持ったランタンの光で視界は保たれていた。
抑えられた方術の光だ。
それから右手を見る。
まるで光を吸い込むような黒い刀身の剣――ザンヤがあった。
両刃の直刀で刀身が1メートルを超えているのでかなり長い。
けれど重さは感じない。まるで自分の手の延長のようだった。
鍔元から10センチほどは刃引きされており、切っ先へ向けて少しずつ細くなっている。
細身ではあるけどそれなりに身幅はあるので刺突にも斬撃にも耐えうる形状だ。
刀身の中央には樋が通っている。
鍔は握り込めるぐらいの長さがあり、また護拳と一体化しているのでレイピアのような細い刺突系の武具ならからめ取って折ることができそうだ。
柄の長さは私の手で3つぐらい。これなら片手でも両手でも扱える。
初めて見るはずなのに懐かしさすら覚える。
もう声は聞こえてこないけれど、なにも問題はなかった。
私とこの子は一心同体。
なにがあっても分かたれることはない。
だからほら、こんなことだってできてしまう。
剣の切っ先を左手の手のひらに収めていく。
手のひらを突き抜けることなく、するすると刀身が呑み込まれていく。
そしてそのまま剣は私の体内へと消えた。
トリックでもなんでもない。
これはただの事実。
探していたものとようやく巡り合えた。
最初からいっしょになると決まっていたものと出会えた。
それはずっとずっと以前から、きっとこの世界が創られた時から決まっていたこと。
それだけは間違いがなかった。