声1
文字数 932文字
薄暗い部屋。埃っぽいむせるような匂い。壁にずらりと並ぶさまざまな武具。
おまけに目の前にいるのは……化け物ですよね?
クモみたいな八本足の下半身がシャカシャカという耳障りな音を立てている。
見上げた上半身の腕の数は五本!
ほとんどの動物の腕の数は二つだって相場が決まってるから!
空間を割るように剣が振り下ろされる。
下がったところに岩に穴を穿つような鋭い槍の突き。
軸をずらして前へ出ようとしたところに横凪ぎのメイス。
飛び上がってかわしつつ上段から斬りつける。
ガツンという鈍い音。
剣の軌道に盾が差し挟まれていた。
盾の表面を蹴って距離を取る。
着地した背後に灼熱の炎が生まれている。
気合を込めて剣を一閃することで
大きく息を吐く。
なんとかしのぎ切ることができた。
学院に来る前の私だったら、今の攻防で3回は死んでたネ。
ただ飛びのく方向は間違えてる。
んもう! 私ってば、どうして進む方向を間違えちゃうのよ!
扉から離れて部屋の奥に逃げちゃってるし!
泣きたい。
なんでこんな目に私が遭わなくちゃいけないのよっ。
ねぇ、神様! 私の話、聞いてますか!?
なんてブーブー愚痴をたれていたら、体の内側から話しかけてくるものに気が付いた。
思わず口元がほころんだ。
今の私は一人じゃない。
左の手のひらに握った右手を添えて、ゆっくりと両手を広げていく。
広げきった時、右手には黒い刀身をした抜き身の剣があった。
シャカシャカと嫌な音をさせながら化け物が距離を詰めてくる。
この化け物は五本の腕に一本ずつ物騒な武器を握っている。
剣、槍、メイス、盾、杖。
それが混乱することなく、正確に私を傷つけようと襲い掛かる。
同時にゴゴゴゴという大気の渦巻く音。
咄嗟にしゃがんでなかったら首と胴体がさよならをしてた。
私の後ろにあった棚が音を立てながら崩れる。
あそこに並んでた武具だって由緒あるものばっかりだよね。
あとで先生に怒られないといいけど……。