白い霧3
文字数 793文字
ロープの長さを気にしつつ魔物を誘導するために馬車から離れる。
少し歩いただけで馬車の姿が見えなくなった。下を向いても地面すら見えない。まるで真っ白な空間に取り残されたみたいだった。
視界はいいところ80センチぐらいかな。圧迫感を覚えるほどの濃い霧だ。
しばらく歩いていくと、タッタッタッタという地面を蹴る軽い音が迫ってくる。
ガウッ。
頭を下げて代わりに剣を置いておくと、そこに白っぽい狗のようなケモノが飛び込んできた。
二つのものが地面に落ちる音。
それから、びしゃりという水音が聞こえた。
この血の匂いをかいで私の方に集まってくれるといいんだけど。
問答無用で斬りかかられた。
咄嗟に剣をかざして相手の切っ先をいなす。
声だけが聞こえてくる。霧のせいで周囲は真っ白だ。視覚は頼りにならない。
さっきから殺気だけ何度も飛ばしてきてる。
なんなのこの人。すごくおっかなくて、すごく強いんですけど!
呼吸音――くる。
あっぶなーい。
こんなに息が乱れるなんていつ以来だろう。
発情したキングエイプの巣に飛び込んじゃった時?
それとも繁殖期のアースワームが百匹単位でイチャイチャしてるところに落っこちた時だっけ?
っていうか、なんなのこの人ぉ~!?
もしかして人間の姿を真似たバケモノだったりするの?
一瞬で三連突きとか絶対に人間業じゃないってば!