刺客1
文字数 940文字
私の前にトゥシスが立つ。
この背中の後ろにいれば安全だと言っていた。
軽口を叩きあいながら周囲を確認する。
この場所は通路が広がっていてちょっとした広間のようになっている。
これだけスペースがあれば相手を分断して戦えそうだ。
トゥシスの強さはよくわかっている。
だから一体なら大丈夫。でも二体は無理だ。
トゥシスが私の前から離れて広間の壁を背にする。
私は反対側の壁に向かって歩いていき距離を取った。
ゴッパチはこちらの出方を伺っているようで動きはない。
転移させられてからここに来るまで、二人でいくつもの戦闘を切り抜けてきた。
トゥシスが壁役で私が攻撃することもあれば、私が時間稼ぎをしている間にトゥシスが拳や方術で仕留めることもあった。
正直、疲労はある。
ダンジョンに入ってから少なくとも半日以上は経過しているはずだ。
途中で休憩や食事をしているとはいえ疲労は蓄積している。
今だって体が重い。
右手に持つザンヤを負担に感じることはないけど、疲れていて腕を上げるのだって億劫だった。
要所要所で方術を使い、トラップを回避し、ここまで戻ってくるために私を先導してくれたトゥシスは精神的にもかなり疲れていると思う。
でも泣き言は口にしない。
それをしても意味がないことをわかっているから。
愚痴を言い合うのは無事にこのダンジョンから脱出して、イーサたちと再会できた時にいくらでもすればいい。
私の役目は手早く二体を倒してしまうことだ。
武具庫で一戦経験しているので、相手の動きや戦い方は大体わかる。
あの時はいきなりの戦闘で相手の情報がなかったり、狭い場所だったりして苦戦したけど今回は大丈夫。
相手が二体になったとはいえ場所の広さは十分だし、ザンヤは自分の腕の延長のように扱える。
だから負けるはずがない。
ゆっくりと足を進めていく。
私が近づくと三体とも反応を見せる。
それぞれが八本の足を器用に動かしながら位置を変えようとする。