ex湯船

文字数 1,994文字

んぅ~~

 湯船に入ったままサダーシュは全身で伸びをした。


 これまでの生活ではせいぜい濡らした布で体を拭くか、小川に入って汗を流すことしかしたことがなかった彼女にしてみれば、大量の湯に全身で浸かる行為はとてつもない贅沢である。

んはぁ……いい気持ち。気持ちいいから、このまま寝ちゃいたいかも

 入学式をなんとか無事に終え、クラスメイトたちとも顔を合わせた。

 翌日からの細かな連絡事項を確認したら学院初日は終わっていた。

 緊張を強いられた一日であったがまずまずの日であっただろう。


 温かくて美味しい食事を終えると、一日の疲れを癒すためにお風呂に入る。

 淡く白いお湯は薬草から抽出したエキスが混ぜられており、疲労回復に効果があるということだった。


 サダーシュは蕩けるようなだらしのない顔をしながら全身を弛緩させていく。

 手足の指先がジンジンと痺れるような感覚がなんとも心地よい。

いけませんよ。溺れてしまいますから

 背後から近づいてきたイーサティアがサダーシュを支える。

 豊かで柔らかなものが二つ、サダーシュの背中に押し当てられていた。

だ、大丈夫だよ。ごめんね
 そろりとした動きでサダーシュはイーサティアから離れようとするが、二本の白い腕が背後から伸びてきて絡みつく。
ほらほら、しっかり肩まで浸かってください。体が冷えてしまいますよ
ひ、冷えてなんかないよ。だってもう上がろうと思ってたし

 しかし繊手が離れていくことはなかった。

 どうしようかと一瞬迷うが、好意による行動なのはわかるので大人しく従って、その場にとどまることにする。


 サダーシュの顔が赤いのは湯船につかって血行が良くなっているばかりではない。

 同性とはいえこうして一緒のお風呂に入る経験などこれまでなかったのだ。


 自分を認識してからというもの、これまでの生活はほとんど一人で過ごしてきた。

 それ故に他者との接点は驚くほど少ない。たまたま仲良くなった女性冒険者がいたぐらいだ。しかし彼女たちがこうしてサダーシュに近づいてくることはなかった。


 つまりサダーシュにとって互いの肌を触れ合わせられる距離まで誰か近づくというのはほとんど初めての経験だったのだ。

入学式も無事に終わりましたけど、どうでしたか?

 抱きしめられたまま背後から囁かれる。

 首筋にあたる柔らかな呼気がくすぐったいのだが、決して不快ではなかった。

楽しかったよ。今までこんなにたくさんの人と会ったことがなかったし、学院の施設はどこに行っても立派だし、なによりご飯はおいしいし、お風呂にだって入れちゃうし。なんだか私まで偉い人になったみたいだよ
 そんな無邪気な感想にイーサティアは微笑む。
そうですねえ。サダーシュもユースなのですから選ばれた存在ではありますけど、それに奢ってしまってはよくありませんよ
 まるで幼子に言い聞かせるかのようなイーサティアの話し方に、サダーシュの表情も和らいでいく。
あ、そういえばさ。昨日、イーサにマジックユースなの?って聞いたじゃない。その時に四分の一正解って言われたんだけど、それってもしかしたらフォーユースだったから?
ふふふ。バレてしまいましたか。そうだったのです。わたくしはフォーユースだったのですよー。驚きましたか?

 イーサが体を寄せてきて背中に当たる重みが増した。

 それは柔らかさを伴う心地の良い感覚でもあった。

うん、とっても。でもさ、ユースが四つもあったら混乱しない?
そういうことはないですね。身も蓋もないことを言ってしまえばユースは武具の扱いに優れた人というだけですから。いろいろな武具が他の人よりも上手に扱える。わたくしはその扱える武具の種類が多い。それだけのことですよ
ふーん。じゃあさ、やっぱり武印も四つあるの?
ええ、そうですよ。見ますか?
いいの?

 背後から回されていた手がほどかれる。

 サダーシュが振り返ると微笑むイーサティアが右手を自分の鎖骨のあたりに添えていた。

まずはここです。右の鎖骨のあたりにあるのが見えますか? それから左の乳房の内側にも一つ
 言いながら豊かな双丘を下から手で支えながら見せる。
ごくり……
 思わずサダーシュの喉が鳴っていた。
左の脇腹にも一つあって――

 右手を回して左胸を持ち上げる。

 指が白く柔らかな胸に沈み込んでおり、武印を見るどころではない。視線は美しい曲線を描く部分に釘付けである。

最後はここの――

 湯船から立ち上がるとザバリと音がする。

 かすかに足を開いて右足の付け根あたりを指差した。

太もものあたりに一つあります。ね、四つあるでしょう?
 目の前に立つイーサティアの肢体を瞳に焼き付けながら、ゆっくりと湯船に顔を沈めていく。
ぶくぶくぶく……

 何を言っているのかさっぱりわからない。

 サダーシュはこう言っていたのだ。


『イーサって下にも毛が生えてるんだ……』


 実際の年齢差以上のものを思い知らされていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

サダーシュ=シュラインベース

本作の主人公。ブレイドユースなのだが愛用の使い古しの剣でしかその実力を発揮できないでいる。ただしその剣で戦う時は誰よりも強い。


イーサティア=ニアステリア

王都で困っていたサダーシュを助けてくれた女性。サダーシュと同じく学院に所属する。

ブレイド、ブロウ、スラスト、マジックの4つのユースを持つフォーユース。

トゥシス=アズウェイ

イーサと一緒にいた美男子。サダーシュに対してどこかトゲトゲしい感じがある。

ブロウとガードのダブルを持つ。

カーモリア=アナディール

王立学院の学院長。

ニシキーン=ネオビューズ

学院でブレイドの師範をしている。

央国五剣の一人。

ケントール=フィルマウス

学院でガードの師範をしている。

男子に対して特殊な趣味を持っているもよう。

ジュリウス=リベスパーン

学院でマジックの師範をしている。

方術具の制作者としても著名。

ゴウローン=フラマウンス

学院でブロウの師範をしている。隻眼。

シンゴラス=リースバリー

学院でスラストの師範をしている。

ジンバルク=アプキャッスル

サダーシュたちの担任でありマジックユース。

方術よりも古の神秘である魔法に傾倒している。

ハージェシカ=イーツテリア

学院生徒の一人。女性だがしゃべり方がそっけない。

ブレイドとブロウのダブルユース。

ハヤード=アンウィスト

学院生徒の一人。

スラストのユースで弓を得意とする。

ケインズ=サウスマウンズ

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

マジックのユース。

ゲンザール=スプラウェル

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

ガードのユース。かなり年配。

シンハース=ロンストア

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

ブレイドのユース。

ヘイステイシア=ウィスホール

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

ブロウのユース。


レフターナ=フィルパディ

学院生徒の一人。ロウマインド流の門下生。

スラストのユース。

汎用男性1

汎用男性2

汎用男性3

汎用女性1


汎用女性2

汎用女性3

モンスター

描写に合わせて適宜ご想像ください。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色