ex湯船
文字数 1,994文字
湯船に入ったままサダーシュは全身で伸びをした。
これまでの生活ではせいぜい濡らした布で体を拭くか、小川に入って汗を流すことしかしたことがなかった彼女にしてみれば、大量の湯に全身で浸かる行為はとてつもない贅沢である。
入学式をなんとか無事に終え、クラスメイトたちとも顔を合わせた。
翌日からの細かな連絡事項を確認したら学院初日は終わっていた。
緊張を強いられた一日であったがまずまずの日であっただろう。
温かくて美味しい食事を終えると、一日の疲れを癒すためにお風呂に入る。
淡く白いお湯は薬草から抽出したエキスが混ぜられており、疲労回復に効果があるということだった。
サダーシュは蕩けるようなだらしのない顔をしながら全身を弛緩させていく。
手足の指先がジンジンと痺れるような感覚がなんとも心地よい。
背後から近づいてきたイーサティアがサダーシュを支える。
豊かで柔らかなものが二つ、サダーシュの背中に押し当てられていた。
しかし繊手が離れていくことはなかった。
どうしようかと一瞬迷うが、好意による行動なのはわかるので大人しく従って、その場にとどまることにする。
サダーシュの顔が赤いのは湯船につかって血行が良くなっているばかりではない。
同性とはいえこうして一緒のお風呂に入る経験などこれまでなかったのだ。
自分を認識してからというもの、これまでの生活はほとんど一人で過ごしてきた。
それ故に他者との接点は驚くほど少ない。たまたま仲良くなった女性冒険者がいたぐらいだ。しかし彼女たちがこうしてサダーシュに近づいてくることはなかった。
つまりサダーシュにとって互いの肌を触れ合わせられる距離まで誰か近づくというのはほとんど初めての経験だったのだ。
抱きしめられたまま背後から囁かれる。
首筋にあたる柔らかな呼気がくすぐったいのだが、決して不快ではなかった。
イーサが体を寄せてきて背中に当たる重みが増した。
それは柔らかさを伴う心地の良い感覚でもあった。
背後から回されていた手がほどかれる。
サダーシュが振り返ると微笑むイーサティアが右手を自分の鎖骨のあたりに添えていた。
右手を回して左胸を持ち上げる。
指が白く柔らかな胸に沈み込んでおり、武印を見るどころではない。視線は美しい曲線を描く部分に釘付けである。
湯船から立ち上がるとザバリと音がする。
かすかに足を開いて右足の付け根あたりを指差した。
何を言っているのかさっぱりわからない。
サダーシュはこう言っていたのだ。
『イーサって下にも毛が生えてるんだ……』
実際の年齢差以上のものを思い知らされていた。