刺客4
文字数 1,161文字
行きの行程でも地上に近い階層はほとんどモンスターとの遭遇はなかったから、そこからは順調な道のりだった。
ついに一階層にたどり着く。出口まであと少しだ。
力が抜けそうな足をトントンと叩いて筋肉をほぐす。
トゥシスが先の様子を確認する。
この角を曲がれば広間に出て、その先が出口だ。
最後までトゥシスは警戒を怠らない。
でも疲労は隠せないみたいで顔色は悪いし、足元もふらついている。
後ろから背中を支えてあげる。
ここまでこられたのはトゥシスのおかげだし、このぐらいのサービスはしてもいいよね。
無理やりテンションを上げているのを自覚する。
私も疲れていた。体を寄せ合わないと立っていられないぐらいに。
だからその瞬間まで気がつけなかった。
一瞬にして目の前が真っ白になる。
頭の先からつま先に向けてすさまじい衝撃が駆け抜ける。
衝撃はすぐに消えた。でも体は痺れて動かない。
なにが起きたの?
ガクガクと全身が震える。
痛い、痛い痛い痛いいたい!
焦げ臭い。
肉が焼けたにおい。
右肘が勝手に曲がる。
白く霞んだ視界に右手が入る。
肘から先は見覚えのある色形をしていたけど、体に近い方は黒く焦げて煙が立ち上っていた。
声が出ない。
呼吸もできない。
なにが起きたの?
どこかで名前を呼ばれた気がする。
音が聞こえにくい。
体が自分の意志に従ってくれない。
力を入れているのに思い通りにならない。
視界の隅に変化があった。壁沿いに歪みがある。
姿を隠した敵が潜んでいた。
迂闊だった。
今の私は電撃の方術を受けたゴッパチと同じ状態だ。
でも右手だけは生きている。
それならザンヤを呼び出せる。
だって私はアーツなんだから!
右手に確かな感触。
これで戦える。
どんな相手だって戦い抜いて見せる。
連続した風切り音。無数の矢が迫る。
それを肘から先しか生きていない右手が閃いて弾く。
黒い棒のようになった足を前へ進める。
少しでも相手に近づくために。
この距離では斬れないから。
なにかを言われた。
再び視界が真っ白に染まる。
衝撃に体が跳ねる。
体が勝手に断末魔を叫んでいる。
戦わないと。
仲間を守らないと。
なにも見えない。
複数のプレッシャーが迫る。
横殴りの衝撃――堪える。
縦の斬撃――弾く。
敵の攻撃を体が覚えていた。
まさか知っている相手?
世界が白い。
まるで霧に包まれたように。