八(五)
文字数 1,251文字
三頭の馬が、闘いの中に突っ込んできた。ひとりの男が馬上で剣を振るい、敵を威嚇した。跳ね起きたリョウは、驚いた敵が囲みを解く間に、田を助け起こして馬に乗せ、自分ももう一頭の馬に乗ると一目散にその場を離れた。青海牧場の青い旗を掲げた進の馬が後を追って来た。
「進、またお前に助けられたな」
想定外のことが起こったためか、敵の一団は乗って来た馬の元に走り、怪我人を連れて北へ引き上げ始めている。自慢顔の進から事情を聞く間もなく、リョウは田 為行 から残った石鑿 を受け取り、馬首を返した。
「進、田を頼む」
そう言って、リョウは再び敵の一団に向かって走った。あの書状を渡すわけにはいかなかった。
栗の木の根元で、散乱した金貨を拾い集めていた曽 果映 が、革袋を馬の背に乗せ、もう一人の男と一緒に南に走り去るのが見えた。北へ向かった兵らは、曽を支援していただけなのだろう、だとすれば書状は曽の手の内にある、そう思ったリョウは南に向けて馬に鞭 を当てた。
突っ張った欲の皮が、曽 果映 の馬の速度を鈍らせたのだろう。重い金貨を積んだ馬の速度は次第に落ちて来た。それに対して、リョウの乗る大型の馬は早い。しばらく草原を走ったリョウは、林の手前で二人に追いついた。馬上からリョウが射た矢を避けながら、曽ともう一人の男は止まり、馬首を返してリョウに正面から向き合った。リョウは、曽果映をにらみつけた。
「炳霊 寺で僧を殺したのはお前だな。西胡屋 の主人もお前が殺したのだろう」
「冥途 のみやげに聞かせてやるが、西胡屋を殺 ったのは番頭の郭 壮傑 だよ。俺は少し手伝っただけだ」
「お前は、郭壮傑の手下だろう」
「俺が商人なんかの手下になるはずがないだろう」
そう言いながら、曽 果映 は馬の鞍に付けた短槍 を引き抜いた。もう一人の男も、同じように短槍を構え、二頭でリョウの馬を挟むように、突進してきた。リョウも前に馬を走らせ、引き抜いた剣を両手で強く持つと、すれ違いざま、左の男の槍から身をかわし、右から突き出された曽の槍 を渾身の力で跳ね飛ばした。再び向き合った曽にリョウが言った。
「確かに、やくざ者なんかの腕じゃないな。槍を使うとは、お前たちは、兵士崩れだな」
「兵士崩れとな、フッフッフ。こんな身なりはしているが、俺は今でもれっきとした唐軍の隊長だ」
驚くリョウが言葉を発する前に、曽ともう一騎が、さっきと同じようにリョウを挟み込んで突進してきた。リョウは再び両手で握った剣で右の槍を払ったが、すれ違いざまに左から突き出された曽の槍をかわし切れず、左の脇腹がカッと熱くなった。このままではまずいと思ったリョウは、そのまま前方へ駆け抜けると林の中に走り込んだ。逃げたと思って追って来た敵に対して、リョウは木々の中を駆け抜けながら大きく右に回りこみ、二人の横腹を突く形で迫った。二騎でリョウを挟み込もうと思っても、今度は木が邪魔して挟めない。林の中で槍を剣に持ち替えた曽の一撃をかわしたリョウは、もう一人の男とすれ違いざま、馬上で剣を払って男の横腹を切り裂いた。
「進、またお前に助けられたな」
想定外のことが起こったためか、敵の一団は乗って来た馬の元に走り、怪我人を連れて北へ引き上げ始めている。自慢顔の進から事情を聞く間もなく、リョウは
「進、田を頼む」
そう言って、リョウは再び敵の一団に向かって走った。あの書状を渡すわけにはいかなかった。
栗の木の根元で、散乱した金貨を拾い集めていた
突っ張った欲の皮が、
「
「
「お前は、郭壮傑の手下だろう」
「俺が商人なんかの手下になるはずがないだろう」
そう言いながら、
「確かに、やくざ者なんかの腕じゃないな。槍を使うとは、お前たちは、兵士崩れだな」
「兵士崩れとな、フッフッフ。こんな身なりはしているが、俺は今でもれっきとした唐軍の隊長だ」
驚くリョウが言葉を発する前に、曽ともう一騎が、さっきと同じようにリョウを挟み込んで突進してきた。リョウは再び両手で握った剣で右の槍を払ったが、すれ違いざまに左から突き出された曽の槍をかわし切れず、左の脇腹がカッと熱くなった。このままではまずいと思ったリョウは、そのまま前方へ駆け抜けると林の中に走り込んだ。逃げたと思って追って来た敵に対して、リョウは木々の中を駆け抜けながら大きく右に回りこみ、二人の横腹を突く形で迫った。二騎でリョウを挟み込もうと思っても、今度は木が邪魔して挟めない。林の中で槍を剣に持ち替えた曽の一撃をかわしたリョウは、もう一人の男とすれ違いざま、馬上で剣を払って男の横腹を切り裂いた。