五(四)
文字数 1,375文字
驚くリョウに、ヤズーが教えてくれた。
「攻城 弩 だ。巨大な鉄製の矢を飛ばす。あれで大仏を破壊するつもりだろう」
城も壁も無い草原でしか戦ったことのないリョウには、初めて見る武器だった。
「しまった、敵はあの船が来るのを待っていたのか。奪った金もあれで運ぶつもりだろう」
「兵を退 かせてから、攻城 弩 を使うつもりだろう。急いで何とかしないと」
そのヤズーの言葉のとおり、大仏を襲っていた賊も、一斉に退いて行くのがわかった。
「あれはどう見ても唐軍の船だ。盗賊のふりなどかなぐり捨てて、なりふり構わず炳霊 寺を潰す気だ」
近くに立っていた呂浩 が吐き出すように言った。リョウが、皆に命じた。
「ありったけの火矢を用意しろ。火攻めで、船を離岸させる。それと、大仏の周辺の者を退避させろ」
そう言う間もなく、船の攻城 弩 から、最初の鉄矢が放たれた。鉄矢は、高い放物線を描き、大仏の手前に落下して、荷車を破壊し、地面に突き刺さった。健らが、必死に足場を降りて来るのが見える。
本堂の僧兵が階段の下に走り降り、急いで火矢と火種を用意した。リョウは、戻って来た突厥 騎兵の一人と騎乗を代わり、他の四騎と共に、火矢を持って船着き場に走った。その間にも、攻城弩から第二の鉄矢が放たれ、今度は塑像で造った大仏の下半身近くの足場に命中し、足場がガラガラと音を立てて崩れた。
船着き場では、敵兵が待ち構えていたが、リョウは構わず突進し、敵兵を蹴散らしながら桟橋 の上まで走らせ、そこから点火した火矢を船内に打ち込んだ。リョウを追って来た四騎の突厥奴隷たちも、岸辺から火矢を放ち、桟橋を戻ってくるリョウを弓矢で援護した。
そのリョウたちの頭上を、新たな攻城弩の鉄矢が大仏に向かって飛んで行くのが見えた。今度こそ、まっすぐに大仏の頭を破壊するかと思えた石矢は、頭の少し上に掛けられた木道を吹き飛ばし、轟音と共に辺り一面が砂塵にまみれた。しかし、そこまでだった。船中に打ち込まれた火矢の消火と、さらなる攻撃から船を守るためだろう、船は兵らを乗せて、慌 しく岸を離れていった。
寺の本堂に戻ったリョウたちを、住職と朱ツェドゥンが迎えた。朱ツェドゥンが事情を説明した。
「大船でやって来た賊の別働隊が、崖の方から近づいて、本堂裏の金蔵を襲ったのです。賊が知るはずもない裏の道を案内してきたのは、長安から連れて来た職人たちでした」
「曽 果映 たちだな、とうとう化 けの皮を現したか。足場に細工して俺を狙ったのも、事故を装って何度も工事の邪魔をしたのも、全部あいつらの仕業だろう」
「その男が、住職の寝室の戸を蹴 破 り、隠していた金蔵の鍵を持ち出しました。ずうっと、金蔵への出し入れを手伝うふりをして、鍵の在りかを探っていたのでしょう」
呂浩が苦々し気に言った。
「あいつらにすれば、長安の貴族の争いも大仏の破壊も、本当はどうでもよくて、仏教派の貴族たちが送ってきた金品を奪えれば、それで十分だったのだろう。おかげで、皆殺しにならずに済んだが」
「襲われると分かっていて、『はいどうぞ』とお宝を積んでおく馬鹿はおらんだろう。お宝は仏様のために大事に使わなくてはならないものだ。あの者らが苦労して運んでいったのは、砂金ではなくて、ただの砂の箱だ。まあ多少は砂金も混ぜていたがな」
そう言って住職は、フォ、フォ、フォ、フォと笑った。
「
城も壁も無い草原でしか戦ったことのないリョウには、初めて見る武器だった。
「しまった、敵はあの船が来るのを待っていたのか。奪った金もあれで運ぶつもりだろう」
「兵を
そのヤズーの言葉のとおり、大仏を襲っていた賊も、一斉に退いて行くのがわかった。
「あれはどう見ても唐軍の船だ。盗賊のふりなどかなぐり捨てて、なりふり構わず
近くに立っていた
「ありったけの火矢を用意しろ。火攻めで、船を離岸させる。それと、大仏の周辺の者を退避させろ」
そう言う間もなく、船の
本堂の僧兵が階段の下に走り降り、急いで火矢と火種を用意した。リョウは、戻って来た
船着き場では、敵兵が待ち構えていたが、リョウは構わず突進し、敵兵を蹴散らしながら
そのリョウたちの頭上を、新たな攻城弩の鉄矢が大仏に向かって飛んで行くのが見えた。今度こそ、まっすぐに大仏の頭を破壊するかと思えた石矢は、頭の少し上に掛けられた木道を吹き飛ばし、轟音と共に辺り一面が砂塵にまみれた。しかし、そこまでだった。船中に打ち込まれた火矢の消火と、さらなる攻撃から船を守るためだろう、船は兵らを乗せて、
寺の本堂に戻ったリョウたちを、住職と朱ツェドゥンが迎えた。朱ツェドゥンが事情を説明した。
「大船でやって来た賊の別働隊が、崖の方から近づいて、本堂裏の金蔵を襲ったのです。賊が知るはずもない裏の道を案内してきたのは、長安から連れて来た職人たちでした」
「
「その男が、住職の寝室の戸を
呂浩が苦々し気に言った。
「あいつらにすれば、長安の貴族の争いも大仏の破壊も、本当はどうでもよくて、仏教派の貴族たちが送ってきた金品を奪えれば、それで十分だったのだろう。おかげで、皆殺しにならずに済んだが」
「襲われると分かっていて、『はいどうぞ』とお宝を積んでおく馬鹿はおらんだろう。お宝は仏様のために大事に使わなくてはならないものだ。あの者らが苦労して運んでいったのは、砂金ではなくて、ただの砂の箱だ。まあ多少は砂金も混ぜていたがな」
そう言って住職は、フォ、フォ、フォ、フォと笑った。