第131話 西の果ては西

文字数 653文字

 しんどい。苦しい。訴えていた故郷の友が逝って三、七日になる。 
西の西の果ての空の下には、友も加わって故郷の故人の全てが眠っている。故郷にはもう誰も居ない。盆の墓参をしなかったのは記憶にない。初めてのことである。息子に誘われたが、起き上がれなかった。それは暑さだけでない、気が折れて腐り始めているからだ。

「おーい彼岸はどう?眠っている?みんなに会えたで」
「返事は何もない」
西の空に向かって「おーい」と呼ぶこと日に幾たびか。

 地震騒ぎで窓辺の草花は皆床に下ろした。居間には大木(1メートル)になった数珠珊瑚
が三鉢鎮座している。生き返り命を繋いだ鉢の花は、クーラーの効いた部屋で女王のごとく一等席で君臨している。この花を見ていると人生と同じように「運」を感じる。落葉の季節でもないのに
葉を落とし、喘いでいた。哀れな末期を見兼ねて枝を切ろうと、鋏を握っていたのは七月の初めの頃。大容量のクーラーに取り替えたのを機に居間は植物園になった。どうあろう。皆んな元気になって話し相手になり毎日癒されている。
 珊瑚真珠は分相応の赤い実をつけているて、クーラーの微風にも愛想をしている。
 全く外出しない、できないから猛暑の厳しさは肌身に感じない。最後まで残った食欲。美味しいものを食べる。これぞ生きている証のようなものであった。しかし、この夏何を食しても美味しくない。期待して体重計に乗る?何故、なぜ筋肉ばかりが落ちて脂肪は残っているの。
 あゝ、歳は重ねたくものよ。八十歳はまだ若い。八十歳に戻れたらと、夢は広野を駆け巡る。







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