第18話 秋霖

文字数 468文字

 雨が降る。私は雨が好きだ。なかでも秋の雨は格別だ。
鯉も姿を消した故郷の古池を、思い出を辿り眺めていた。
秋雨は粒が大きいのか、糸引くさまも太く波紋も大きい。
さまざまな波紋が生まれては消え、また生まれ
重なり合って消えてゆく。
人生模様さながらだ「アッ」果てたかと思っていた池に
生き物がいて波紋の輪が乱れた。

 その夜。
 また、夜半から降り出した雨音を聞きながら、うつらうつら
する目覚めるまでのひととき。

 少し風が出たようだ。秋霖が夢に入ってきたのか、
夢が雨音を捉えたのか。正座する夢を見た。

 夢でないかと「夢の中でつねった頬は痛い」
「夢でないこれはうつつだ」と思った。
立礼がなくても炉が出せる。と小躍りした。
正座ができなくなって、二十余年、少し不自由は
あるけど、これが己の現実だと受け止めている。
が、潜在意識の中では、お茶席を諦めた気が尾を
引いていたのだろうか。
脳裏の奥に座りへの未練があったのだろうか?

 初めてみた正座している夢。膝の高さも低からず高からず、
地味な着物まで記憶に残った夢。

 ボンボン時計に時を告げられ開眼。雨降る朝だった。
 




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み