第114話 昭和の谷の村(2)

文字数 547文字

 水温むころ村は総出で川の大掃除をして水をひき苗代を作る。
その日はあられを煎って、道ゆく人に振る舞った。それは何を意味するかは知らないけど、
慣習だろう。
 八十八夜には菩提寺で甘茶が接待された。飛びつくほど美味しいものではなかったが、
祖母に連れられて行った。もの思う年頃といえばロマンがあるが反抗期の入り口に入った
のだろう。何で私だけ祖母なんだと思い寺詣では卒した。

 やがて田植えをする。田植えは綺麗どころを集めて賑々しかった。
その頃、蛍の飛び交うのは格別珍しくなかった。蛙は夜を徹して鳴いた。

 一月もあった夏休みは楽しく「アッ」という間に終わった。宿題がなければ最高と
毎年思っていた。私は宿題も付け焼き刃であった。
弟が就学してからは家庭教師にもなった。
 
 秋の夜空でなく、夏の夜空をよく見上げた。星に願いを込めて、なんてロマンはない。
家の中は暑いから、涼を求めて庭に出たのだ。庭にはイッキャクという一畳ほどの台を置いてあった。父が俳句らしからぬ、川柳もどきを作って、これはどうかなと言っていたが、私は何も
わからなかった。父は闘傷生活が長かったらしく、その時、俳句の真似事や手仕事を覚えたと
聞いた。針仕事は祖母より上手かった。三年生になって家庭科が教科に入るまでは、なんでも父が
やってくれていた。








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