第29話 山火事(2)

文字数 510文字

 公民館では婦人会の方々が炊き出しをしている。
昔と同じ、梅ぼしを入れた握り飯が運び出されてゆく。

 一度、鎮火が伝えれほっとしたが、再燃した。順次、
引き上げるところだったので、エンジンをかけるやら、またホース
を繋ぐやら慌てふためいく。鼓動がまた激しくなる。
 10時になって本当に火は鎮った。
 
 ずぶ濡れになった方々が1団、2団と引き上げてゆく。
「ありがとうございました」最敬礼しても、尽くせぬ思いで、それでも
ずっと頭を下げていた。

 ぐしょぐしょになった長男が山から降りてきた。煤にまみれた顔。
歯が異常に白かった。

 公民館の後片付けを手つだていたら日が変わった。
弟と兄の息子が念のため、山を見回ると言うので同行した。
 
 竹の子を掘った山、わらびを手折った思い出の山は、長靴が
埋まるほど水浸しになっていた。
不気味な焼け焦げの匂いが山一面を覆っている。
電池を照らしてみる狂った火の跡は、断片しかわからないが
日が昇って、改めて慄く。

 村の消防団は皆それぞれに職業を持ち、これこそ奉仕で消防
活動をしている。思い出した今もありがたいの思いは忘れない。

 「生涯かけて報恩できぬほど大きな借りができた」
 豪気な兄は肩を落としてつぶやいた。




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