第116話 昭和の谷の村(4)

文字数 380文字

 中の猪のこに炬燵の口開け、と言って霜月の2〜3回めの猪の日。
土で焼いた黒塗りの大きな炬燵に火を入れる。火は豆炭か硬い炭をいける。
保温の理屈を把握しているのであろう。朝までほかほかと暖かかった。
猪のこ団子といって、よもぎの団子餅をついた。よもぎは嫌いだった。

 寒村には一足早く冬がやってくる。天井が、煤で真っ黒になるほど
囲炉裏で焚き火して、焼いた芋はほっくりの飴色。裸電球の下で
祖母と弟と3人で硬い布団に潜って寝た。毛布は来客用だけだった。
 
 雪がよく降った。私は物心ついた時には既に雪は好きだった。
好きというより、私は雪の国からこの世へ来た旅人でないかと思うほど
雪にはときめいた。私は雪女を何作も書いた。

 雪の大晦日の水車の音は成長とともに心に響く様が異なってきた。
故郷の水車は我が心の風物詩である。
 
 昭和とともに埋没したあの水車に、今も想いを馳せている。




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