第22話 生かされた道すがら(1)

文字数 601文字

 桜の花に迎えられて昭和14年4月校門をくぐった。
誰に連れられて入学したのか全く覚えていない。父母でないと
したら7歳上の兄だったかもと、このごろ頻りに記憶の回路を呼ん
でいるが応答無しだ。
 教科書が買えないほど貧しくはなかったのに、1年生と2年生は
近所の「まっちゃん」のお古だった。名前も「ニシタニマチコ」と
書いてあった。「まっちゃんち」とは父の友人で家ぐるみのお付き
合をいしていたので、当然のように教科書が下がってきた。当時は、
他にも何人か、お下がりの教科書を使っている子がいた。
 1年生という、うれしさはあっても、初めて活字に触れる高揚感は
なかった。国語の最初の授業は「サイタ、サイタ、サクラガ、サイタ」
とカタカナで学んだ。読めた子もいたが私は、読めなかった。
読めた子の素晴らしさに驚いた。

 2年生では平仮名と漢数字を学んだ。
「一だん、二だん、なわとんだ。三だん四だん、つづいてとんだ」
さあ大変だ。こんな字見たこともなかった。それでもまた、読める
子がいた。ルビなど誰も教えてくれないのに、横にカナを打って、
「はーい」と手を上げて読んだ。勉強していないのに読める子は
家できっと姉たちや母親に学んで予習していたのだろう。
私は、予習も復習もしない子で「勉強しなさい」とはついぞ言われ
たことがなかった。宿題は登校してから急いでこなした。

 それでも二年生から副級長さんになった。
 級長さんは男子と決まっていた。





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