第30話 最後の晩餐(1)

文字数 650文字

 終の住処と決めた山裾に越して幾星霜が過ぎたことだろう。
越して間も無く始まった木曜会。この会もここ1年休むこと
が多くなった。メンバーも二人がやむなく抜けた。
 何かに書いたから重複するかもしれないが、最初は、まりこ
が、和裁を習いにきたのが始まりだった。まりこは、後にも先
にもたった一人の裁縫のお弟子さんであった。

 目の先を変えて昼ごはんをまりこと二人分作った。一人で
ぼそぼそと食べるより、美味しかったし、何より楽しかった。

 いつの間にか五人、六人と増えていって、ついに毎週木曜日の
昼食会になった。証券会社のMさんと弟は、まりこに次いで古い。
たいしたご馳走はできないが、野菜も魚も季節のものを使った。
会費はと人は聞くけど、最後まで無料であった。
人のために奉仕したのは、考えてみると木曜会だけである。

 最後は5人になったが、この指たかれと発したら、
今でもすぐ全員集合する。
20数年の絆は深くて、お互いに忘れられないものである。

 人は皆、好むと好まざるにかかわらず老いて行く。
8月最後の木曜日に最後の晩餐を計画した。それは私が9月に
ケアハウス入りを決心したからである。

 当日のメインはやはり魚を使ったお鮨。少し小さいがボーセを入手。
3枚におろし、たっぷりと塩を振りかけた。冷蔵庫で数時間置く。
塩を含んだ水をペーパーで拭き取り、酢につけさらに数時間。その後
酢の中で軽く洗いペーパーで拭く。
最後に柚子と酢(お好みの合わせ酢)につける。
朝には握って箱に入れ昼まで軽く押しておく。
 あとは、蕎麦ごめ汁と茄子の漬け物。


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