第111話 あれから36年

文字数 980文字

 長男、長女、二男がそれぞれ配偶者を伴って長男の家に集合。
長男の息子と私の8人で、わいわい、ガヤガヤと3時間が流れるように過ぎた。
みんな思いで深いものになったと思う。
 満腹になったところで、長男の嫁が
「お母さん花子の映像を見せましょうか」「ぜひ、花子に会いたいわ」
花子が死ぬ前の病んで痩せているイメージが重かったが、
プロに写真を動画にして貰ったらしく、在りし日の花子を目の当たりにして、
天にも昇る気持ちだった。36年も昔のビデオが、こんな動画になるなんて、
何もかも日進月歩しているのだと感心している。
 忙しくて、どの孫ともほとんど関わっていなかったと思っていたけど、
孫と、花子と一緒に写っている若くスマートな初老の女性は私だった。
花子を呼ぶ声のトーンも優しさに満ちていた。
まだ歩けない孫は、床を這い回っていた。
 花子は陸海両用車両のように、私が家にいる時は家の中で、事務所に出たら
事務所、外出する時は、助手席に飛び乗って座っていた。
動画を見て、孫が可哀想になった。あの時の床は清潔ではなかっただろう。
済まなんだなぁと心で詫びた。当時の私は世の中で一番花子が、近しかったのだ。
花子は裸の王様であった。

 ある時は花子に中庭に逃げられ、孫は伝い立ちして窓へ寄って花子を呼んでいる
様子だが、花子は入ってこない。窓越しに孫と花子は対峙していた。
知恵はまだ花子の方が上だったのだろう。
孫が諦めて窓を離れると花子はすぐ部屋に戻った。
孫と花子のコラボをよくまあ写したものである。
動画の「題」は花子である。長男と嫁に感謝しきれないほど感謝した。
 3人の子供たち。それぞれは今、人生で一番良い季節を迎え、送っていると思う。
3夫婦揃ったのは初めてのこと。今日は幸せを存分に味わった。
今度、3人が揃う時は、私の旅立ちのときだろう。それぞれの思いを分析している。

 3○年昔、私が住んでいた家。子供がつけた柱の傷が微笑んで見えた。
国体のユニホームを着た夫の遺影はそのままに広間の中央にあった。
 ボクシングの選手たちを引率して行った時の晴れの写真だ。
 夫の一番晴れの季節かも?
 お開きの後、娘夫婦は次男の家へ行った。私はまた1人になった。
昂りは波のように寄せては返して、いよいよ目が冴えてくる。
 
 今日の集いは夢ではあるまい。
 夢なら覚めないで欲しい。みんなありがとう。  6月1日真夜中。








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