第12話 トンボの眼鏡(完)

文字数 416文字

 ここ1〜2年の間に名義変更するものは全て終えた。
水道や新聞に至るまで母の名前のものは何もない。
草木が好きで、屋敷を広げてまで植えていた木も、
お守りが大変だと切り、季節の野菜を少し植え花壇を
わずかに残して、すべて駐車場にした。
身震いするまでの終活である。
 東側にある坪庭は母の格別の思があるのだろう残した。
小さいつくばいは、今も筧の水が時を刻んでいる。
 
 私の彼女を見極めて、あとは頼んだよと
あっさり施設にゆくと言い出した。
止めても、どうにもならん事は、わかりきっている。

 明日、母と彼女と3人で契約にゆく。

 別れは突然やってくる。
初めて家を出た時は、大学生。るんるんだった。
今度は、母が出て行くという。
 
 これが人生なのか。
私は捨てられたのではないかと思った。
人はマザコンというが、それは違う。

 捨てたのでも、捨てられたのでもない。  
これは、宿命だ。時の流れだ。

 母は生きている。近くにいる。
これからは、孝行の真似事でもしよう。
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