第62話 花は語るか

文字数 440文字

 忙中閑あり。
はたと時間が空いた秋の夜のひとときを、八歳の娘と
五歳の息子の三人で、キャンデーを食べながら、ずいぶん
久しぶりの団欒を楽しんでいた時のことだ。
娘は膝の上に乗るが、息子は意思あるごとく寄り付かない
「母さんが花だったら何の花だろう」
「ほら絶対にひまわりだ」
「私は母さんはたんぽぽの花の思うわ」
図らずも黄色に統一された子供の視点に驚いている。
どう贔屓目に見ても牡丹や白百合には見えないのだ。
感心して子供の話を聞いた。
 この時期、父親が病んでいたので、小さい胸は不安
だったのか。炎天下に凛と咲くひまわりに、踏まれても
咲次ぐたんぽぽに、母親を重ねていたのかもしれない。
「よし、ひまわりでいることは、子供からの発信だ」と
受け止めて肝に銘じることにした。

 あれから五十余年の歳月が過ぎた。
近ごろは大輪のひまわりをあまり見なくなった。が、
ミニのひまわりを見ると、たんぽぽといった娘の言葉
と共に、二人の言葉が思い出される。
 時は流れてゆくが、目を閉じると幼な子が
当時のまま浮かんでくる。





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