第104話 そんな事ってある(2)

文字数 663文字

 2カ月も放置されたままのスクーターをちょっと借りて直結で繋いで
すぐ元へ戻すつもりであった。泥棒したのではない。いくら説明しても
窃盗届けの出ているスクーターに乗っていたのだから弁解の余地はない。
どう説明しようが現実は証拠が揃っている。
 そこへ保護者の私が駆けつけた。アルコールが入っているのと次男の容疑の
「窃盗」にすっかり理性を失い
「おのれ苦労して泥棒など産んで育てた覚えはないぞ。泥棒ならここで2人で死んで
お詫びをするのだ。許さん。殺してやる」と署で私が荒れ出した。
持て余したのは警察官。「お母さん何できたんで」「自動車できました」
「それなら飲酒運転でないで」「いいえ長男が前の喫茶店で待っています」
別の警官が長男を呼びに走った。
「この子に限ってとか、なにぶん内分に」とかは言わない。
「己が悪いのだ。許さん」と、責め立てた。
「本人も反省しているからお母さん許してあげて」本末転倒になった。
盗難届は引き下げられた。盗難はなかったことになった。痛んでいたスクーターを修理する事で
お陰で示談が成り立った。
 この親なら再発もなかろうと、変なところで信用された。
学校への報告もされないまま、この件は警察の計らいで無に帰した。
悪い夢でも見たような、でもほんとの話。

 警察署を出た母子3人は、それぞれの思いに沈んでいた。
長男は「今夜に限って飲酒していなくてよかった。僕も危ない所だった」
「ほんまにやられるのかと警察よりお母んの方が恐ろしかった」と次男。
私は天に感謝した。
 帰宅後、長男と飲み直したが、鬼親もこの一件応えたのか酔えなかった。


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