第85話 リスクと高齢

文字数 1,037文字

 声が大きいので初めて会う人も旧知の人も皆、お元気ですねと言う。
「いいえそんなに元気ではありません」と内心つぶやく。
 両膝関節症、虫垂炎、甲状腺、白内障、網膜剥離、手首骨折。
ざっと、上記は手術した部位であり病である。病といえば、高血圧、
高脂血症にその上、頭の中に動脈瘤があり、この瘤は破裂しない限り
手術することはないと言う。破裂したら蜘蛛膜下出血。「まあ爆弾を
抱えているようなものです」医師はスルスルと言う。気になってセカンド
オピニオンというか、医師を変えたが見立ても言うことも全く同じだった。
この瘤、十年来大きくも小さくもならず血管にしがみついている。愚弄な
話だが、いぼ痔とは30年来付き合っている。便秘や下痢になると「これは堪
らん手術しよう」と腹を決める。しかし、少し良くなると決心が鈍るのである。

 GWに帰らずに6月に娘が帰省した「よし此の時に手術を決行する」と話したら
「母さんはほんまに手術の好きな人だなぁ」と宣う。
「好き好んで切除しているのではないわ」不機嫌に答えておいた。

 さて、手術の段取りをしなくてはと、清水の舞台から真っ逆さまの思いで、
初めて痔の検診を受けた。
「案ずるより産むが易し」でアッという間に診察は終わった。
「脊髄に麻酔して下半身麻痺させて執刀するが、なにぶんご高齢なので
脊髄に麻酔ができるかどうか」?
「そんなら全身麻酔でやるのですか」?
「なにぶんご高齢でリスクが大きいので私は手術をお勧めできません。今まで
30年も我慢してきたのに何故今ですか?どうしてもと仰るなら高いリスクを覚悟
していただいたらお受けします」医師はやんわり断ったのだ。
「帰ってよく相談してみます」
 医師は差し障りのない言葉で言ったけど、考えてみれば、高いリスクと言うことは、
命と後遺症をかけることと受け止めた。せっかくの命。この痔には掛けられない。
相談には及ばないと娘に「手術はもうやーめた」とLINEしておいた。

 両膝の手術をしてやがて5年になる。そうだあの時も医師は
「今なら右膝も同時に執刀できるが来年になったら手術する自信がないのでは
ないかと案ずる」と言った。
「なら、今、両膝一緒に手術しよう」付添の二男が言う。向こう見ずの親子は、即決した。

 自信がないと言う、医師の言葉がずっと胸につかえていたが、今解けた。
問題は高齢とリスクの比例だったのだ。

 9月の診察の時、この話をしよう。クソ真面目そうな医師はどんな顔をするだろう。

  両膝同時執刀の疑問が解けて心は晴天である。






 






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