第78話 あの世この世(3)

文字数 541文字

 この暑いのに、次兄の50年忌と義姉の3年忌
(俗に点し上げ)があった。
コロナ禍の下なので近親者5〜6人で御供養した。
義姉は今頃だったけど、次兄は3月。南国には
珍しい雪の舞う日だった。突然吐血と下血に襲われ、
主治医は止血に努めると言う。素人が見ても輸血は
素通りしている様子。1日を経て、これは手に負えんと
救急の手配をした。大学病院へ搬送されている途中。
次兄は状体を起こさせ、点滴を抜きはなった。
「私はこれまでです。先生お世話になりなした。皆さん
ありがとう。さようなら」の言葉と同時に逝った。
私は、救急車の後を走っていたので、その場にはいなかったが、
旅立ちの場にいた弟は、壮絶な死に様だったと言う。
主治医も乗り合わせていながら、そんな死に方はこの世に
あるのだろうか。自分の体に血のないこと、血圧がすでに
さがってしまったこと。熟知しのだろう。人間でない、
神のような心の兄だった。なぜ、すぐ救急車を手配できな
かったのか悔やまれてならない。さだめだと思いかえしている。
 次兄の臨終を思い出しながら久しぶりに、住職に続いて読経
した。読経は、御供養のためにあらず我がためにあるごとく、
清しい気持ちになった。
 あの世とこの世に片足ずつ掛けている昨今。今こそ心静かに
読経すべきのような気持ちになった。






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