第113話 昭和の谷の村(1)

文字数 1,018文字

 西の窓を開けると霞か雲か遠くの山は薄墨色になって今日はなにも見えない。
天気の良い日は兄の好きだった風車を数えることができたが、近頃また一段と視力が落ちて、
風車を見ることが全くできなくなった。それだけでない。少し歩くとすぐ息が切れる。
息を整えようと立ち止まることが多くなった。
 風車を見て故郷を偲ぶことができなくなった今日この頃、
 せめて思い出の故郷に湧水のようなこの時間を当てよう。

 その昔、鶯の笹鳴きに友と顔をを見合わせ、うなづきあった。
 土手のつくしが目覚める頃、谷川の水音も心なしか大きくなり流れも早くなった。
流れのところどころに、細長いスゲの葉が行きつ戻りつしてたわむむれている。私は
無心に眺めていた。
 桃の花咲く四月、桃の節句は祭りに匹敵する子供の大きなイベントであった。
3級上と下級生を合わせても10人に満たない隣組の子供たち。それでもグループは
別れていた。安子さん姉妹と町子さんの4人で近くの野か、町子さんの家で遊山箱を
広げた。いつものメンバーで変わったことはないが、遊山箱というトッピングがあるから
4人は高揚していた。遊山箱は三段になっていて、赤い箱には巻き寿司、いなり、黄色い
箱には羊羹などお菓子、緑の箱には煮しめ、煮しめの真ん中に茹で卵が半分に切って入っていた。
この日だけしか食べることのできなかった卵。忘れ難き、鮮やかや黄身の色と味。

 3〜4年生になると上級生のメーバーに加わったが、いつも背伸びしていた感否めない。
全員集合で6〜7人いただろうか。意地の悪い子がいて誰かを虐めていた気がする。
四年生の時と記憶しているが、我が家の裏山で遊山をするから筵を運んでおくように命令された。
祖母に話したら一番小さい子がなんで運ぶんだと否定されるのは必定なので、早朝にそっと運んで
置いた。
 私たちの遊山をしていた山の上に万国旗を揚げて兄貴たちは築城していた。
 男の子たちは雄大である。攻め合い城取り合戦をするのである。大将の兄貴は、バイもメンコも
喧嘩も強かった。城を落とされたことはない。落とした城の旗を持って凱旋していた。

 桜咲く4月。花見などという優雅なことはしなかったが、菩提寺に氏神さんに地神さんに桜は咲き誇っていた。綺麗だなあと思っただけだった、しかし、子供の琴線に何が触れたのか?
散る桜、桜吹雪が好きだった。雪のように積もれよと期待して降る桜の下でしばらく立っていたが
風もないのに、花びらは肩から滑り地に降った。














ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み