第59話 共存する生命

文字数 693文字

 故郷は野生動物の王国になるか
村の中央に一本の川が流れている。大きな川だと
思って育ったが、ほんとは小さな川だった。
川南の山の尾根に風車がたくさん建った。見た目には
雄々しく、立派だが、近づくと「ゴウ、ゴウ」と大きな
音を立てている。人間の耳にも好ましい音ではない。
野生動物も嫌なのか南山から姿を消した。
そして川北へ総移動してきた。勢い故郷の裏山は野生動物
の格好の住処になった。ふえた猪、駆除のため村は奨励金を
出した。ただし狩猟が認められている冬季。
 昔は猟友会があり、猪狩りには何人も組になって糞の跡から
猪を追いかけていた。冬季に2〜3回、猪の肉にありついた程度
だったが、狩人より動物の繁殖の方が多く、アンバランスになっ
た昨今。猪を筆頭に狸、狐、うさぎ、ハクビシンと数え切れない。
 そのハクビシンを老猟師が鉄砲で打った。
まだ1匹いると鉄砲を構えたら「ウワー、ヒュー」と泣きながら
撃たれて果てたハクビシンに寄り添い、「撃たないで」と泣きな
がら猟師に手を合わせたという。こんなことは初めてで後味が悪
かった。2匹は親子だったのだろうか?その日は猟をやめたという。
 
 その漁師は亡兄の友達で上記の様な話をしながら猪肉ををくれた。
この星は人間だけのものではない。共栄はできないが共存している
のだと思ったことだった。
 しかし、耕作しているというほどでない畑の芋は殆どん猪に掘られ、
ハクビシンは屋敷の柿をもぎ、2階の屋根の上でゆっくりと食らう。
それを思うと、共存の心は揺らぐ。
「一寸の虫にも5分の魂」というではないか
 この世に一つしかない生命。それぞれの命。
 命の重さを考えさせられた故郷のある日だった。




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