第106話 飛び石連休

文字数 479文字

 昔は飛び石連休と言っていた。
日本中が連休に湧く初日。私は、3年前まで住んでいた小さい
山裾にある家へ帰った。
息子の意向で屋敷の木はほとんど切ってある。
東面にある1坪ほどのツクバイの所だけ残して、
せめてこれだけは私の今を生きている証として残してもらっているのだ。
殺風景、以上の何物でもない。価値観の違いは如何ともせん。
住人が満足しているのだから、それでいい。  

 家の前に4畳ほどの庵と花畑があった。
夏野菜を植えるというので監督に呼ばれて帰った。
春には帰っていないから、季の花とは逢えなかったが
今頃は、そろそろアヤメかなと、濃い紫を想像して、勇足で
迎えの車に乗った。
アマリリスも紫蘭もアヤメも掘り倒して影もない。
くの字になった飛び石が寂を深くしている。

 捨てたはずではないか。諦めが悪いぞ。と。自分に言い聞かせている。
それでも農耕民族の血は、躍動し、土に接する喜びを全身で感じ取り、
正気を取り戻した感、否めない。

 久しぶりの農作業は老体には酷だったが、心が満足しているから
今日は、いいけど明日は疲れがどっと出るだろう。

 晴れのち、時々雨、よい一日をありがとう。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み