第8話 トンボの眼鏡(2)

文字数 620文字

 生まれて六日目。私と姉は母にトラックにのせられて
現場へ連れてゆかれた。帰途母は、急停車して(目の前が黄色くなり目が見えない)
姉と二人は弾みで滑り落とされた。中之町の薬局の前だった。
姉は泣きまくったが、私は泣かなかったのか、泣けなかったのか?
ちょうどミルクが切れているから買うため母は下車。
 薬局のおじさんに(子供は何人載せているのか)と聞かれ
変なこと聞く人と「二人」と言った途端。
(それは大変。泣かぬ子がいかん。お代は後でいいから
早くお医者さんへ連れておゆき)と

 私はH小児科で髄液を抜かれ検査された。
発熱すると大変なことになるので2〜3日
絶対に動かさないように指示された。
 何も覚えていないし意識もはっきりしないのに、母のため
私は熱を発症させなっかとしか考えられない。
目に見えない。音に聞こえない。異次元(霊)の世界を感じている。
次の日、おしめとミルクを持ってまた私はお隣へ預けられた。母は
池田町(7○キロも離れた)の現場の道具の引き上げに行ったのだ。

 帰り道、母は再び、目の前が黄色くなり目が見えなくなった。
奈落の底で2時間喘いだ母は、楠さんが飲ませてくれたオレンジジユースで
人ごこちしたと聞いた。
トラックには、月賦で購入したばかりの発電機を引き取るために、
O社の楠さんが同行していたのだ。
発電機をO社に納め母の帰ったのは、暗くなってからだった。

 母乳が出ないため私はミルクで育った。
母は、母乳の出るようなものを食していなかったのだ。


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