第50話 冬の木

文字数 540文字

 冬の日、昨秋まで住んでいた家に帰った。
四季の移ろいを見せてくれる小さい山は裸山になっている。
寒さに耐えるため葉を落とす樹木。葉もまた親なる樹の明日
に備え、己の分を弁えて自分から散ってゆく。
 みごとに色づいた紅葉が、ハラハと散ってゆくさまから学ぶ
ものを感じている。  
 分身を果たした樹は新しい芽を抱えている。
よくみると米粒ほどの芽は、固い鱗片のようなものに覆われ
保護されながら越冬するのだ。
 親は子を、子は親を思う心に通じないだろうか。生ける
ものの転生か、輪廻か。
 
 小屋から山をただみている。尾根には身ぐるみ脱いだ木立が
寒空に透けて見え、冬木の向こうから陽が昇り、月が昇る。
味方によれば冬木は華麗にさえ見える。
 晴れた日の尾根の道は落ち葉がカサコソと鳴り、程よく湿った
雨後の小径は足にやさしかろう。登りたいけど、登れない。
空想するだけだ。
 
 この冬一番の寒波が風とともにやってきた。黒ずんだ緑の木々
は、泰然と波を打っている。身ぐるみ脱いだ冬の木は、突風に吹
かれながらも、しなやかに復元している。
 日暮れ頃になると山の上空をトンビが輪を描き、その下をカラス
の群れが舞う。何とも平和である。やがて空が茜色に染まる頃、
カラスの群れは三々五々、冬の木の向こうのネグラへ帰っていった。
 


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み