第10話 トンボの眼鏡(4)

文字数 276文字

 保育所と乳児保育園を母は探していた。
姉の通う保育所は見つかったが、乳幼児の通う施設は
どこにも空きがなかった。貧で生きることができなくなり
とうとう私を乳児院に預けることにしたようだ。福祉に頼る
ことは母が、吉としなかったようである。

 私は預けらたことも、親と離れたことも、何も記憶にない。
 1年余、私はぬくぬくと育てられたが、母は、必死で働いて
いたようである。そのころ父は、措置患者として大学病院に、
入院したままであった。

 二歳になった5月。我が家へ帰って来たが、住処はやっぱり
工場の二階だった。
 姉と同じ保育所に通うことができて、母が何より喜んでいた。
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