第57話 赤い手袋

文字数 450文字

 凍てつくこの季節が来ると必ず思い出す赤い手袋。
昭和の初期、大戦の前と大戦中に幼少期を迎えた私は、
毎年ように冬の間、手に霜焼けができた。
 寒さに血液の循環が悪くなり、その上栄養も滞った
のだろう。凍てつく中で洗濯をしていた。その内、霜腫れ
になり、裂ける、裂け目はひろがる。薬はあったのか?
つけたのか。記憶にない。裂け目からでた汁で手袋が濡れる。
それが乾くと硬くなる。硬いところが裂け目に当たると痛い。
 
 洗い替えが何枚も必要だった。私の霜焼けを知ってか、知ら
ずか、お隣のおばさんはお正月には赤い手袋とお年玉をくれた。
 おばさんの家には、3級上の梅ちゃんがいたが、梅ちゃんは
何もしない。何もしなしから、いつも綺麗な手をしていた。

 私の霜焼けも、暖かくなれば、嘘のように癒えた。癒えたが、
大きなケロイドが残った。
今も、勲章のようにケロイドを撫でている。

 ケロイドは今も左手の甲で皺の中に光っている。
 冬がくれば思い出す。
 ケロイドを見て思い出す。赤い手袋をくれたおばさんのことを。
 おばさんはいい人だった。



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