第120話 世紀を超えた織物(2)

文字数 663文字

 有り余る時間で祖母のなどは15○年にもなるかと思う古物を次々と厚生していった。
その内娘の友人の母親が、入門してきた。生涯でただ一人のお弟子さんである。
朝9時ごろに来て、昼食は二人分私が作った。後片付けは彼女がした。
 分厚い椎茸を焼き、特産のスダチをかけて、食べるとき「このマッタケは美味しい」
と、腹を抱えて笑いながら食べた。その内2階の一室を専用の部屋にした。
 昼食が美味い、うまいと言っているうちに、証券屋のMさん、友のEさん、弟と甥
まで加わり、木曜日はランチの日になった。木曜のランチは20年余り続いた。
 いけない。方向がランチになってゆく。軌道修正しなくては。

 母の遺品を厚生していると知って叔母まで昔の着物を持ち込んできた。
綿入の半纏は、一人二人と指折っていると、10指に余るほど贈っている。
軽くて、暖かいとみんなに喜ばれた。
 女に学問は要らないと、和洋裁だけは習わせてくれた、祖母を思う。
 
 齢90が過ぎて、針仕事はする気が失せた。
しかし、洗い張りを済ませた昔の織物がそのまゝたくさん残っている。
この夏、デイケアの先輩に請われて1枚縫った。単衣か袷、どっちにする。
聞くと、そら袷がいいと言うので袷に仕上げた。
 
 1世紀を超えているというに、何の遜色もなく艶も張りもある厚生品。
 昔から衣は文化の象徴であり、富を表したものだった。木綿や紬では
富の象徴ではないが、藍染や泥には、分に合った心地よさがある。

 私は今年も秋が来たら100年昔の着物の厚生品を纏う。
 織物たちは、眠りから覚めて新しい息吹に歓喜することだろう。



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