第54話 雪やこんこん

文字数 541文字

 夜も更けて雪が降り出した。
ガラス戸に網が入っているので雪の舞う様がはっきり見えない。
換気だと、言い訳をしながら、ガラス窓をオープンにする。
南国には、珍しく雪は深々と降る。
 お向かいの店の常夜灯に吸い込まれる様に斜めに降り続く。
降雪が気になって読んでいる推理小説が、ゆきつ、戻りつ
進まない。夜半、本を閉じた。雪見も諦めてカーテンを引いた。
旅立たずに、雪見できる幸運に昂ってなかなか眠れない。

 朝5時はまだ暗い。6時も仄暗い。7時の眺めは雪国だった。
電線に積もった雪で電線は僅かにカーブしている。風が吹き、
まず電線の雪が身ぐるみ脱いだ。
 
 街の中央に向かう通勤の車が、ノロノロと、殆ど動かない。
昼、限られた用事で外出した。車はいつもの通り運行している。
日の当たる場所は既に溶けているが、
日陰は雪も残り凍りついて光っている。
屋根の雪がしばらくの間、雨垂れの様に音を立てていた。

 近郊の雪は消えたが遥かに見る故郷の山は銀色に輝いている。
あの山の吹き下ろしで、郷の人たちは寒いだろう。
 
 ニュースでは十一年目の大雪という。この大雪昼間に降って
いたら私は狂喜しただろう。しかし、交通が麻痺し沢山と人々が
難儀したことだろう。やっぱり「両方いいのは頬かむり」だけ?

 見上げる空、雲はもう春の雲だ。


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