第7話 トンボの眼鏡 (1)

文字数 484文字

 S39年5月私はこの世に生を受けた。
前日は腹水の安定が悪く、手足も思うように動かせなかった。
後で分かったことだが、母体はこの日、重労働をしていたと聞く
急に押されて細い管に入り、出たところは広いところだった。
思い切り息を吐いた。
 3200グラムの赤子は難なく現世に出て「オギャア、オギャア」
と泣いた。
そこは明るく、自由に手足をうごかすことができた。

 平和な眠りの中。微かに目覚めても、いつもそこに母がいた。
そんな日が4日続いた。
五日ぶりに俗にいう「臍の緒」が離れた。
 急に母が動きだし、ただならぬ気配で母に抱かれて退院した。

 帰った家に、父は倒れていた。救急車が来て父は病院へ。
母は、私を抱いたまま父の入院を済ませた。そのあと。
私をみてくれる人がいなくて、どうしようもなくて大学病院
に入院中の叔母の所へ連れて行った。
「ちょっつと頼む」といったきり、1日中預けっぱなし。
私は不安でよく泣いた。その上お腹が空いて泣いた。

 叔母は哺乳瓶や乳を買い、大変なおもいをしたらしい。
 入院中の病院でご苦労なさった叔母に、頭が上がらない。
 母は思い出してありがたかったといっている。

 
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