第100話 老衰

文字数 793文字

 大江健三郎、ノーベル文学賞作家は戦後の日本を代表する文学者であった。
享年88歳、新聞は一面に平和・護憲の言論活動の様子を大きく報じた。
 私は、90歳を過ぎてから、思いが偏った。逝った方の生き方や過去よりも、
死因が気にかかって仕方がない。健三郎氏は、報によると老衰であて最後は
穏やかに眠りについたといある。
 個人差はあるだろうが、私より2歳余りも若い方が老衰で旅立ったことに、
平常心が欠けてくる。老衰って命の灯火が燃え尽きることでしょう。
「とうとう老衰年齢になったか」欲も得もない。今日1日を楽しく生きなくては、
といっても、何も楽しいことはない。夢がないのだ。約束された明日がないのだ。
それでも、日は昇り日は沈み1日が過去になってゆく。こうしている間も
時計がきざむように全ては過去になり、二度と戻らない。
そう思うとやっぱり今日1日を穏やかに過ごしたい。
今日の紙面に伊藤雅俊氏は98歳、老衰で旅立ったとある。しかし扇千景89歳は
食道胃接合部がんであったと報じている。今更案じても仕方のないことながら、
苦しくはなかったのかと気にかかる。
 八ヶ岳の大自然で自然の中に最高の立地で暮らして35年の柳生博は昨年の4月老衰
で逝ったと報じられていた。85歳だった。85歳で老衰か。少なからずショクだった。
人間という生き物には天寿という、環境に左右されない、決められた宿命があるのだろう。
 
 まだ老衰にはなりそうにない。
 心身共に老衰になる日まで、生きなくては。
 自分より若い集いには、エネルギーを吸収するんだと大きく息を吸い込んでいる。
 老人の集いには目立たないように、黙ってそっとしている。
 何って勝手な奴だろう。そして繋がりも出来ずだんだん孤独になってゆく。
 週一度のデイケアセンタでは、シルバーカーを引く先輩に、明日の自分を重ねている。
 仕方がない己れが選んだ道だ。大外回りの最終コースだ。


 
 






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