第77話 あの世この世(2)

文字数 777文字

 仏前でおっ母に語りかけて満足したのは、
何時ごろまでだっだろう。
 成長の途上、ふと、気がつくとわたしには母がいない。
いつのまにか、仏前で会話しなくなっていた。
その頃、反抗期が始まったのかもしれない。
 
 故人曰く「帯に短し襷に長し」で私は晩婚だった。
新婚気分は無かったように思う。遊びの三拍子を揃えた
亡夫の鐵工所は、結婚後4年で倒産した。ゆえあって、
引き取った長男と、二人の子供と再起不能と思われる
亡夫を抱えて「神も仏もこの世にはあるものか」
頼りになるのは、自分だけ、信じるのは自分だけだ。
「槍でも鉄砲でももってこい」と働いた。

 故人曰く「おとご(末っ子)の15は世の盛り。
末っ子が15歳になったころに、
なんとか亡夫の再起業も安定した。私は再び
神仏の世界にのめり込んだ。霊能者に異常な関心を抱く。
西に霊能者があると聞けば問い。東にあると聞けば遠近を問わず
訪ねる。その内、修験者も、問うて、滝修行もした。
 狂おしいまでになぜ暴走したのかと、問われれば、
霊界(あの世)との交信がしたかったのだ。と答える。
 息子が入試の朝。
「大丈夫よご先祖さまがそうおっしゃった」と息子を
送り出した。結果は不合格。
仏前の線香が、揺らぎもせず真っ直ぐ立ち上ったから、
私は、お告げがあったと合点したのだ。
 精神修行でなしにただ、あの世との更新がしたい。
人はこれを邪道というか?

 あの世はない。死んだら物体になるだけだ。
そう思ったら、霊能者にも興味がなくなった。
何も求めず、88カ所の霊場も7巡りした。
移ろう四季を楽しんで、今を感謝して巡った。
 自動車を手放した今となってはもうゆけない。
あの世、この世も思い出だけになった。
 お仏壇も長男に託したから手元には何の偶像もない。
読経する場もする事もない。
 
 命の灯火が秒読みになってゆく。これでいいのか?
自分の生き様に自信が薄らいでゆく。












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