第19話 神埼宿 多々良製麺所 長崎街道  

文字数 969文字

 佐賀県に神埼宿の西木戸口跡がある。宿場入口と出口に木戸を設け、朝6時に木戸を
上げ夜10時に下げ宿場入出を管理したという。 
 家並みは街道の雰囲気を漂わせており、突き当りの浄光寺は脇本陣として外国使節団
の宿泊地だった。道は東西に分かれ, 西へ進むと櫛田宮に突き当たる。更に北東に分岐、
迷路で敵の攻撃に備えた。神埼の地名由来は景行天皇が西国巡行の折、当地の荒神を鎮
め、神幸 を得て神埼と名付けられた。この荒神を祀るのが櫛田神社で、博多のお櫛田さ
んの本家神社らしい。
 街道に三百年の伝統を誇る老舗、多々良製麺所がある。ガラス戸を引き、男性がトロ
箱を台車に乗せ出てきた。「それは何ですか」と尋ねると「これは亀で、汚れ落としに
行く所です」と言う。覗いてみると水を張ったトロ箱に漬物石と日本固有種のクサ亀が
首を伸ばし「どうした?」とでも言いたげだった。
 30年前、子供が孵化した亀を持ち帰り、店で飼っているという。多々良社長が「神
埼そうめん」の歴史を語ってくれた。「約380年前寛永12年小豆島より行脚遍歴してき
た雲水が病で倒れた。商人が手厚く看病し回復、お礼に手延べそうめんの秘法を伝授し
た。脊振山の良質な水と佐賀平野の小麦、水車の利用で製麺業が盛んになった」。喉越
しの良さとコシの強さが持ち味。「今は後継者不足で廃業の店が増え、裏の工場も生産
が減り寂しい」神埼ソーメン頑張れ!と言いたくなった。
街道を散策した後、店に寄ると、目元涼しい奥様が「どうでしたか神埼は?」と話かけ
てくれた。未知の地で、この対応は嬉しかった。店の奥に老女将が座っている。江戸時
代から家業を継承している貴重な様子が伺えた。
 トロ箱の亀は新しい水と甲羅を磨いて貰いご機嫌である。店先で首を伸ばし「30年
もこの箱の中でお客を見守っているんだぜ!」と言いたそうに,私を見送ってくれた
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