第79話 松江宿散歩の老夫婦 中津街道

文字数 669文字

 真吾画伯の描かれた郷土・松江宿の街並みの作画を見ながら、東構口方向に歩いていった。
 日豊線の踏切を越えると、右手に地蔵堂がある。江戸時代には両側の住宅はいろいろな商売を
していたのだろう。真吾画伯の言うように空想の世界で宿場を進んでいった。
 日曜のこともあり高齢の夫婦が散歩されていた。周辺に住まれている地元の方だろう。「ここは中津街道の松江という宿場ですか?」と確認すると、ご主人が「いろいろ聞いた話だが」と語ってくれた。白壁の元質屋の傍の十字路に我々は立っていた。「海方向の小径を行くと、樹木が見えるでしょう。あそこが恵比須神社です」と作図を見ながら説明。反対方向を見て「右手に見えるのが浄円寺です」。”お腰かけ”という地区は「逆戻りし、松江駅の先が、二股に分かれ、右の坂道を上る途中にある。広場の草が刈ってある」と遠くを指さす。小柄な老婦人は大柄な夫
の話しぶりを静かに聞いている。夫唱婦随の感じである。「郡境の石柱は、宿場から外れ、車でないと行けない」。「お腰掛けの坂道を直進すると国道10号線を横切る。暫らく走ると、郡境の石標があり、隣の地区との境界でした」宿場の状況をよくご存じだった。作図を見ながらリアルに説明して頂いた。「東構口は今は何もないが、あの柳井酒店付近がそうではないだろうか」と推測してくれた。長年ここに住まれ、場所を認識されているのだろう。松江宿の看板や遺跡も何もないのに、地元の人の記憶には鮮やかに残っているのだった。 「有難うございます。ゆっくり散歩を楽しんでください。お元気で」と挨拶して別れた。
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