第15話 内野宿 母里太兵衛友信を敬愛する男 長崎街道

文字数 1,110文字

 内野宿は黒田藩主の命により、母里太兵衛が造成建築したものだという。前回はコロ
ナの為、脇本陣が休業していたが再度寄ってみた。
 脇本陣の長崎屋がひな人形を展示している。元美人だったろう女将さんがお茶を出し、
黒田節の母里太兵衛友信を敬愛する男がいると言う。障子の向こうの部屋から法被姿の
男性が、こちらを誰何するようにやってきた。
 「お雛様ではなく、この建物や宿場の歴史に興味があるのですが」と私が言うと、男
の眼がキラリと光った。「小奴何者?敵の回し者では?」「それほどの者でなく、ただ
のオツサンです」と言いたかった。
 この家の歴史を語り出した。「1階のひな飾り壇の部屋は天井が高い。2階が倉庫で道
中備品を専用に置く部屋である」。荷物を納める箱は長さ1間・幅半間高さも半間の木箱
だ。担ぎ棒で何人かで運んだらしい。重労働だったろう。
 次の間は「家来が待機しており天井が低い。敵が侵入しても刀を振り回せないためだ」
という。建築は戦国時代の様式で、廊下を歩く途中、ぎしッと音がする。敵が忍び込んだ
際、気付くように細工してある。
 奥が殿の部屋である。床の間には刀置きがあり、隅に茶の湯の為、小さく畳敷が切って
ある。床の間の前に長い槍が鎮座する。母里太兵衛が主君の使者として年賀の挨拶に行っ
たところ、豪快な福島正則は酒の飲み比べを挑んだ。「お前が勝てば、好きなものを持っ
ていけ」と宣った。
 母里は巨漢であった。190cmで体重100kgはあったらしい。福島はべろべろ
になるが、母里は三尺の盃の酒を何杯も空け、長い槍を頂戴した。それは天皇が足利義昭
に下され、信長・秀吉・福島に渡った由緒ある槍「日本号」だった。
 博多人形の母里太兵衛が棚にある。人形師を訪ね熱く母里のことを語る男の情熱に「こ
の人形、持っていけ」とタダでくれたらしい。
 箱階段を使い2階へ上がると、廊下の最初の部屋は家老が泊まる。窓からは宿場の様子が
眺められ、敵をいち早く監視できる。次の間が女性の召使の部屋となる。
 説明は専門的で詳しく、納得させられた。「国の補助金で今年補修が予定されておりR3
年11月には完成する。その時はどうぞお越しを」と言う。
 歴史に忠実に再現したくて文化庁の学芸員が調査を終え復元工事を行うという。「これは
手帳に書かないで」と秘密めいた事を言う。「うーむ!あなたこそ何者?」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み