第64話 芦屋宿で造り酒屋、芳桝屋の女将 唐津街道

文字数 967文字

 若松宿の次は芦屋宿である。芦屋町山鹿から遠賀川河口を、今は芦屋大橋があり渡った信号の傍に、船着き場跡の石碑がある。信号を右折すると唐津街道の芦屋宿に入る。
 道両側に建物があり、今時の建物ばかりだが、1軒だけ白壁の家が存在感を示す。塀には泥棒除けの木製の返しが設置されている。大きな商売をやっていたのだろう。呼び鈴を押す勇気がなく通り過ぎた。狭い道に光明寺の広い駐車場がある。幼稚園を経営され父兄の送り迎えの利用されるのだろう。
 道は直角に左に曲がり、ゆるやかな坂を上る。途中に警察署跡、郡役所跡、劇場大国座跡の新しい石碑がある。細い脇道の向こうに芦屋の海が見える。筑前蘆屋宿場構口の跡の表示があり、傍に文久年間の道標があった。火除け地蔵の小屋もある。その隣は間口は狭いが奥に長い、立派な家があり裏庭が続く。人通りのない所で、尋ねる人もいない。連れが「あそこにご婦人が」と玄関口を指さす。挨拶をし「芦屋宿の事を教えてください」というと、72歳の奥さんが少し照れながら話をしてくれた
 「道路の向こう側に酒蔵があり酒を造っていた。底井野の田圃で酒米を作り、ここで仕込んでいた。屋号は 芳桝屋といいました」「井圡家の跡取りの叔母は未婚でした。母が妹だったので私が養子に入りました。 結婚後、跡継ぎ息子ができ嬉しく思っています」と語る
 「家に冊子がありますので差し上げます」と言い、家から芦屋歴史民俗資料館発行の芦屋の民話という本をくれた。父は小川健次郎といい、この本の挿絵や一部民話も書いたという。芦屋の家々で語り継がれた昔話など散逸を防ぐため、古老に参加を求め昭和50年代から聞き取り録音し平成5年に発行した。
 小川さんの「おかんさんと落雁」の民話は語る。「 天保年間(1830)、産婆のおかんさんの所へ籠が助産の迎えに来た。門構えの大きな家で行灯やローソクがともされ、奥の部屋で産婦から男の子が生まれた。主人は喜び酒宴を開き、おかんさんも飲み、寝込んでしまった。夜明け、行商人が道で寝ている老婆を見つけた。産婆は目を覚まし、酒宴で酔いつぶれ、土産に落雁入りの箱を貰った話をした。
 その夜岡垣の分限者宅で祝儀があり土産に落雁が出た。狐がお産を助けてくれた産婆に盗んできた酒や 落雁を持たせてくれたのだろう」と言う民話だった。
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