第46話 先祖から継承した畑地 安禅寺3

文字数 701文字

 駐車場は200坪あり、真新しい砂利が敷いてあった。かつては寺の下段に
ある畑は農家のかたが所有し野菜を植えられていた。
 高齢で跡を継ぐ人がなく荒れ地となっていた。「住職は譲ってもらえないで
しょうか」とお願いしてみた。「この畑は、先祖から引き継いできた財産であ
る。売って手放すなどは、ご先祖様に申し訳ない」と固辞された。
 無人の禅寺を継ぎ40年近くなる。本堂に住み、托鉢や布施や庭の野菜で命を
繋いできた。この村には古いお寺があり、その檀家さんばかり。安禅寺の30軒
の檀家だけでは生きていけない。並大抵の苦労ではなかった。久留米梅林寺の修
行を思えば、どんな状況でも活路を見出すことができる。
 人の縁を大切にし、仏教の心を広めていった。新しく住み始めた住職の行動を、
10年という時が、真価を見極めるに十分な歳月である。良い縁が積み重なり、理
解者が増えてきた。
 今では本堂で法要を企画し呼びかけ、法話や昼食のちらし寿司を作り食べて貰う。
「前回の法話会では80人の方が集まって頂けました」と住職は嬉しそうに言う。
 下の荒れた畑も「持ち主から1年後、連絡がありました」地主さんは「ご先祖の大
事な土地を売ることはできない。だが働けなくなった今、仏様のためなら土地を寄
付できる」と言い無償で譲ってくれた。
 住職はその心を深く受け止め、石碑を建て「この土地は地主様より寄贈して頂き
ました。末永く感謝します」安禅寺の住職と刻んであった。この石碑は何百年の歳
月にわたり、この地に記憶を留めることになだろう。
 広い駐車場に1台だけ我々の車が止まった。階段を登り、永代供養の建物へと
向かった。
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