第40話 生粋の多良宿生まれ 多良海道

文字数 850文字

 多良駅近くで、タクシー運転手を発見。「多良宿はどこですか」と訊くと「大魚神社
は知っているけど、よく分からない」という。またも消えゆく宿場かなと寂しくなった。
 取り合えず海中の鳥居がありそうなので、車を走らせた。川を渡ると鳥居と観光客が
見えた。潮の引いた干潟の上に赤鳥居が3本立っている。石垣から干潟に降り、人々が
写真を撮っている。
 地元の人らしい日に焼けた頑丈そうな親父さんがベンチに座り海を眺めていた。話を
聞くと「今から1キロ先まで干潟になる。あの黒い米粒のようなのが沖ノ島の灯台、満
潮で島は海に沈む」と言う。後を振り向くと、連山が見える。沖ノ島と鳥居と多良山が
一直線で結ばれているらしい「どれが多良山ですか」と尋ねた。
 木の看板の前で「左の高く見えるのが前山で、その右が太良岳で1m高い」親父さん
の説明で山々が認識できた。
 「陸にあるこの鳥居は今年の2月に建てられた。昔は30年ごとに建て替えられたが、
今は10年しか持たない。下の柱が腐ってしまう」昔の木は長持ちするとよく話を聞く。
 伝説の鳥居と書いてある看板前で「300年前、悪代官に手を焼いた住民が示し合わ
せて沖ノ島に誘い出し、酔った代官を島に置き去りにした。満ちてくる潮で、驚いた代
官は竜神様に助けを求めた。代官は大きな魚の背中に乗り帰還した。感謝した代官は魚
の名前を取って大魚神社を造営し、海中に200に渡り鳥居をたてた」と語った。
 1年前の大雨で太良岳から大水が出て、倒木が海に流れ込んだ。昨日ここでイベントが
あり、流木やゴミを片付けたという。魚も諫早湾のせき止めで、潮の流れが変わり、魚
が来なくなた。昔は、たいらぎ貝という高価な物がよく取れた、今は取れなくなり漁師も
いなくなった。特急も駅に止まり40分で諫早へ行ける。みんな会社勤めしているようだ。
 「あの銀杏の木がある大魚神社の前が、多良海道」と教えてくれた。街道に詳しい人に
会えて嬉しい。70歳の男性はここで生まれ、他所に住まない、生粋の多良宿民だった。
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