第26話 嬉野宿 井出酒造 長崎街道 

文字数 870文字

 嬉野温泉で泊まった「花の雫」から、塩田川の遊歩道を歩いた。対岸の石垣の上に古く
立派な二階家が「井出酒造」の看板が見えた。「部屋はどうなっているのだろう?」見た
いと思った。
 川を渡り、和多屋別荘の脇道を歩くと「長崎街道」の石柱があった。「ここが街道の入
り口か」探し物を見付け、歓びを感じた。東構口の前に製磁店があり、この道70年の女
主人が深川製磁の形と絵付けの魅力に熱弁を振るう。店主の熱意で湯呑を買った。良い土
産になるだろうと思った。
 街道の途中に、井出酒造の店があった。先ほど、川向こうから見た格調ある酒蔵の家だ。
家の主は89歳とはいえ元気な女社長だった。「奥座敷を見ていただきましょう」と案内
する。蔵には大きな酒樽が何本も並んでいる。電気をつけ襖を開けると、家業の盛んな明
治の頃、建築した10畳二間の和室が横並びにある。レトロガラス戸の向こうに塩田川の
浅い流れと対岸がみえる。「桜の咲くときは見事ですよ。またおいでください」若人のよ
うに溌剌と語る。
 ご主人が早く亡くなり、嫁の経営者が盛り立てている。客には、きめ細やかに対応し、
杜氏と共に伝統の味を守る意気込みと経験が感じられた。床の間の掛け軸は「虎の子」で
明治元年より、この銘柄を醸造している。掛け軸は、宇宙から土を運んだ「jaxaはやぶさ]
の性能計算書の表紙絵になった。的川教授曰く「虎穴に入らずんば虎児をを得ず」に因ん
だそうだ。福岡国税局の品評でも大賞を得た虎の子を2本、GOーTOキャンペーンの商品
券で買った。
 街道傍に「シーボルトの湯」が銭湯として営業している。対面に、旅館廃業後の賃貸ら
しき「カフェ」に入った。ガラス越しに庭園があれど手がいき届いていない。若い料理人
が安い家賃で貸りたのだろう。庭を掃除し、室内の飾り付けも考えれば客も喜ぶのに「井
出社長の心を学べば為になるはず」。
 過去に何回か嬉野を訪ねたが、長崎街道に絞り、町を歩くと思わぬ魅力の発見も多かった。
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