第54話 今は亡き人へ伝えたい言葉 エッセイ

文字数 923文字

  兵庫に住む妻の姪から電話が掛かった。 「おばちゃん!岡山の父が亡くなったの。
どうしたらいい?土曜日、医院の駐車場で倒れ死んでいたと警察から連絡があったの」。
 姪は母側に育てられたが、血の繋がった子で、離婚後も義兄と交流もあった。「父の
遺体が戻って来たらどうするの」と動揺し妻に泣きつく。「え!兄が死んだ。3日前、
孫の写真を嬉しそうにスマホで送ってきたばかりよ。一人住まいだから、死ぬ時は人前
で分かるようにしといてと冗談で返したのに」と福岡に住む妻は絶句した。
 妻は思った「92歳の母は少し認知が入っている。手助けしなくては」新幹線に飛び乗
った。「兄ちゃんが死んだ!」母は「なんで、なんで」と大声で繰り返し泣き叫んだ。親
が先に逝くはずなのに、息子が先に亡くなるのは残酷な悲しみだろう。
 喪主がどちらも頼りない。 姪は「火葬だけで、葬式も位牌も要りません。お金もあり
ません」と言う。葬儀屋に訊くと「家族葬で70万円。僧侶は別途代金で自分で探して」
と割高だった。しかし妻は自分で払ってもいいと家族葬で予約、お経のテープを流し終り
にしようと決めた。妻から私に「毎朝、読経している般若心経などを家族葬で唱えて」と
依頼があった。
 私は菩提寺の住職に相談すると「葬儀でお経を読むのは僧侶の仕事です」と岡山の禅寺
を紹介してくれた。通夜と葬儀は岡山の安禅寺でお願いすることになった。僧侶と出入の
葬儀屋で厳かな中、心込もった弔いとなった。
 私は葬儀で亡き義兄に伝えた。私の父は生前「死んだら何も無くなってしまう」とよく
嘆いていた。私は「DNAが私や子供に残って居るよ」と慰めた。 親がいるから私がいる。
 赤子は親の育児なしには生きられない。成長し、自立し、自分の人生を楽しむ。親の恩
は忘れてはいけないと思う。人には寿命があり、義兄さんも生ける年月には楽しみ、悲し
み、苦しみがあっただろう。小さな幸せが沢山あったらいいなと思う。 
 好きな将棋を指している姿を想う。天国で安らかにお眠りください。
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