第45話 禅寺の苔むした巨石  安禅寺2

文字数 913文字

 寺の方に向かうと、前に大型トラックが止まっていた。も少し先に目的地に行く曲
がり角がある。曲がった道にも大型クレーン車が止まっている。周りに坊主頭の人が
見える。作業員が狭い道幅で大型車が通行できるか見ているのだろう。
 後ろで、様子を眺めることにした。クレーン車が前進、巨石を乗せたトラックも角
を曲がった。寺は林の中にあり道は細い。巨石を庭に置くため、運んでるのだろう。
 車がなかなか動かないし、約束した時間は余裕があるので、明日の49日法要後の
昼食の場所を確認しに行くことにした。
 携帯へ電話が鳴った「今どこにいますか?」と住職が訊き「寺への道は他にもう一
か所、入る小道があります。そこからおいでください」と言う。途中の草むらに細道が
隠れるように山へ登っていた。寺の下の段に新しい砂利を引いた駐車場の広場があった。
 後で住職さんに尋ねると、石は買ったのではなく、檀家さんが「古い家と土地を処分
するので庭石を寄付したい」という。5トンはありそうな大石が何個もあるらしい。
 住職は「置く場所は、山だからありますが、とても石を運ぶお金がありません」と話
すと、檀家は「私が運搬費用を出すので」という。有難くいただくことにした。費用は
クレーン1日借りて10万円はするという。
 寺の裏山が雑木林になっているので息子の副住職が「山を切り開き、将来は皆さんが
集まる公園にしたい」と夢を持っている。彼はクレーン免許を取り、斜面を切り開き、
300坪位の土地が造成されていた。大きな酒造りの大樽が2個、逆さに置いてある。
これは廃業する酒蔵の寄付らしい。
 ある僧侶は「持つという字をよく見て下さい。手へんに寺と書いてある。お布施を
持って来て」ということらしかった。寺は施しを受けるのが基盤のようだ。
 運ばれた大石は建築中の集会所玄関前に設置された。「もう永遠にこの場所から動
かないぞ」と苔むし石が決意したかのよう顔をしていた。

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